初日の出(2)
新しい、一年の始まり。
それは、私にとって、初めて温かい光の中で迎える、朝だった。
どれくらい、そうしていただろうか。
太陽が、完全にその姿を現し、辺りがすっかり明るくなった頃。
私の思考は、徹夜による、極度の睡眠不足を検知し、そして私に、強力な眠気を、体は睡眠への移行を、要求し始めた。
(…眠い…)
私は、強烈な眠気に、襲われていた。
意識が、朦朧としてくる。
隣にいる、あおの肩に、こてん、と、頭を預けてしまいそうだ。
「――よしっ!帰るか!」
部長がパン!と、大きく手を叩いた。
「俺はもう、腹が減って限界だ!早く帰って、雑煮食うぞ!」
「そうですね…」
私は、眠そうにしながら、かろうじて、相づちをうつ。
「…私もそろそろ、システムの、シャットダウンが、必要です…」
私たちは、名残惜しそうに、しかし、満足そうな顔で、その場所を後にした。
神社の下で、あおはそのまま、自分の家へと、帰っていった。
「しおり、また後で連絡するね!」と、手を振りながら。
そして、残された私たちは、電車で帰ることになった。
駅までの道中も、私の意識は、半分、夢の中を彷徨っていた。
未来さんとあかねさんが、そんな、私の両腕を支えるようにして、歩いてくれる。
その感触が、心地よい。
やがてたどり着いた、早朝の電車。
私たちは、空いているボックス席に、腰を下ろした。
ガタン、ゴトン
規則正しい、電車の揺れ。
それは私にとって、最高の子守唄だった。
私は、隣に座る部長の、その大きな肩にもたれかかるようにして、完全に、意識を手放した。
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隣ですーすーと、静かな寝息を立て始めた、しおり。
その、あまりにも、無防備な寝顔。
俺は、苦笑いを浮かべながら、自分の肩を、そっと、彼女の頭が安定するように、動かしてやった。
「…寝顔は、子供みたいだな、こいつ」
俺がそう呟くと、向かいに座っていた、あかねと未来が、楽しそうに笑った。
「ふふっ。でも、あんなしおりちゃん、初めて見ました。なんだか、すごく嬉しいです」
「部長さん、女性の寝顔をまじまじと見るものじゃありませんよ」
俺は、しおりの寝顔から目をそらしながら思った
そうか。
そうなんだよな。
こいつは今まで、ずっと一人で、戦ってきたんだ。
だからこれからは、俺たちが、こいつの居場所になってやらなきゃ、いけない。
やがて、俺たちの、最寄りの駅に着く。
しおりは、まだ、深い、眠りの中だ。
「…仕方ねえな」
俺はそう言って、彼女をそっと、背中に担ぎ上げた。
思ったよりも、ずっとずっと軽い、その体に、胸が少しだけ痛んだ。
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(…あれ…?)
(…温かい…)
(…それになんだか、懐かしい匂いが、する…)
ぼやけた意識の中で、私は、自分が誰かの大きな背中に、おぶられていることに気づいた。
部長の背中だ。
彼の体温と、そして、規則正しい心臓の音が、私に伝わってくる。
(…昔。お父さんが、まだ優しかった頃。こうやってよく、おぶってくれたっけな…)
その、私のなかにある、僅かな温かい記憶と、目の前の現実が、重なり合う。
不思議と、嫌な気分ではなかった。
むしろ、心地よい。
(…おぶられる、という、のも、悪くない)
私の思考が、新しいデータを記録する。
私は、その温かい揺りかごの中で、再び静かに、そして安心して、意識を手放した。
私の新しい年は、どうやらこれまでにないほど温かい眠りから、始まるようだった。