初日の出
私たちは、それぞれ手に入れた、お守りを、カバンにしまい、そして、再び夜の境内を、歩き始めた。
不穏な、おみくじの結果。
だが、私たちの心は、不思議と晴れやかだった。
この、仲間たちと一緒なら。
どんな未来が、きようとも、共に力を合わせ、乗り越えていける。
私たちは、そう強く強く、信じていた。
私たちは、神社の中でも、特に見晴らしの良い東屋へと向かった。
そこからは、この街の、全てが、見渡せる。
私たちは、そこで、話をしながら、日の出を待つことにした。
他愛のない、話。
次の、全国大会のこと。
それぞれの、学校のこと。
冬休みの宿題が、終わらない、という、あおの悲鳴。
そんな、普通の、中学生らしい会話。
その、一つ一つが、私の心を温かいもので、満たしていく。
やがて、東の空が、ほんのわずかに、白み始めた。
それまで、賑やかだった、私たちの会話が、ぴたりと、止まる。
誰もが、固唾をのんで、その瞬間を、見守っていた。
地平線の、向こう側から、強い強い、光が、溢れ出してくる。
それは、まるで、世界の始まりを、告げるかのような、荘厳な、光景。
とうとう、日の出だ。
私は、その光景を、ただじっと、見つめていた。
(…日の出。地球の、自転に伴う、見かけ上の、太陽の移動現象。大気の屈折により、地平線下の太陽が、浮き上がって、見える。)
私の思考は、いつものように、冷静に、その現象を、分析しようとする。
(現象的には、普段の日の出と、同じはずだ。特別なパラメータは、存在しない)
なのに。
なぜだろう。
今、私の目の前に広がる、この光景は、いつもと全く、違うものに、見えていた。
(…なぜか、神秘的な、雰囲気を、感じる)
それは、ただの、光の屈折では、ない。
もっと、温かくて、もっと、力強くて、そして、どこまでも優しい、光。
それは、私のこの一年の、そして、これからの、未来を、祝福してくれているかのようだった。
隣であおが、私の手を、ぎゅっと握りしめる。
その横顔は、希望に満ちた光で、キラキラと、輝いている。
部長も、あかねさんも、未来さんも、皆、同じ、光を、その瞳に、宿している。
(…ああ、そうか)
私は、ようやく、その理由に、気づいた。
この光景が、こんなにも、美しく、そして特別に見えるのは。
私が、一人では、ないからだ。
私の隣に、こうして、一緒に、同じ光を、見てくれる、大切な仲間たちが、いるからなのだ。
私は、もう一度、その光を、見つめた。
それは、私の心の奥底にある、氷の壁を溶かし、そして、私の新しい人生の、始まりを告げる、希望の、光だった。
私は、その光の中で、静かに、そして確かに、微笑んでいた。