未来と影(2)
私たちは、それぞれの想いを胸に、そのおみくじを、境内の木に、結びつけた。
新しい、年の始まり。
それは希望と、そして、不穏な影を、同時に連れて、やってきたようだった。
「…………」
さっきまでの賑やかな雰囲気が、嘘のように、私たちの間には、なんとも言えない雰囲気が、流れていた。
特に、あおは、先ほどの「凶」の結果が、よほどショックだったのだろう。私の袖を、ぎゅっと握りしめたまま、俯いて黙り込んでいる。
その、重い空気を断ち切ったのは、やはり、部長の大きな声だった。
「よしっ!気を取り直して、お守りでも買いに行くか!」
彼は、努めて明るく、そう言って、私たちの背中をパン!と叩いた。
「神様がダメなら、自分たちで運を引き寄せるしか、ねえだろ!」
その、あまりにも、彼らしい、単純明快な、言葉。
それにあかねさんが、一番に、反応した。
「うん!そうだね、部長先輩!行こう行こう!」
彼女はそう言って、落ち込んでいるあおの手を、優しく、引いた。
「大丈夫だよ葵ちゃん!おみくじなんて、気の持ちようだって言うし!ね?」
「…うん」
あおが、小さな、声で頷く。
未来さんも、静かに頷き、そして、私を見た。
私もまた、彼女に、頷き返した。
私たちは、お守りを売っている、授与所へと向かう。
そこには、色とりどりの小さなお守りが、たくさん、並んでいた。
「うわー、いっぱいあるね!どれにしようかなー!」
あかねさんが楽しそうに、お守りを選んでいる。
「俺は、やっぱ、これだな!『必勝祈願』!」
部長が迷いなく、金色のお守りを、手に取る。
未来さんは、しばらく静かにお守りを眺めていたが、やがて、小さな青い鳥の形を、した「学業成就」の、お守りを手に取った。
そして、葵は。
彼女は、迷うことなく、二つのお守りを、手に取っていた。
一つは、部長と同じ「必勝祈願」。
そして、もう一つは、「病気平癒」と、書かれた、白い、お守り。
彼女は、その二つのお守りを、ぎゅっと握りしめ、そして、私に向き直った。
「しおり。これ、あげる」
彼女が、私に差し出したのは、あの「病気平癒」の、お守りだった。
「…おみくじ、凶だったけど、私、信じないから。しおりは、絶対に大丈夫だって、私が、信じてるから。だから、これ、持ってて」
その、あまりにも、真っ直ぐな瞳。
その、強い想い。
私の胸の奥が、また温かいもので、満たされていく。
「…ありがとう、あお」
私は、そのお守りを、静かに受け取った。
そして、私は、一つだけ、まだ、手に取られていない、お守りに、目を、向けた。
それは「縁結び」と、書かれた、可愛らしい、ピンク色のお守り。
私は、それを手に取り、そして、葵の手のひらに、そっと、乗せた。
「え…?しおり、これ…」
「…あなたに、もっと、たくさんの、良いご縁が、ありますように、と」
私が、そう言うと、彼女の顔が、カッと、赤くなる。
「ば、ばか!私には、しおりが、いれば、それでいいのに!」
彼女は、そう言いながらも、そのお守りを、大切そうに、ぎゅっと握りしめていた。
私たちは、それぞれ手に入れたお守りを、カバンにしまい、そして、再び夜の境内を、歩き始めた。
不穏な、おみくじの結果。
だが、私たちの心は、不思議と晴れやかだった。
この、仲間たちと一緒なら。
どんな、未来がきようとも、きっと乗り越えていける。
私たちは、そう、強く強く、信じていた。