年明け
私の新しい年は、どうやら、これまでにないほど、温かく、そして、希望に満ちたものとなりそうだ。
しばらくそうやって、新年の喜びを、分かち合った後。
ふと我に返ったように、部長が、腕を組んで言った。
「――で、これから、どうするんだ?」
その、あまりにも、素朴な問い。
それに答えたのは、意外にも、あおだった。
「え?…どうするって、言われても…」
彼女は、きょとんとした顔で、首を傾げる。
「いや、だから年越しの後だ。普通なんかあんじゃねえのか?初日の出、見に行くとか、そういう、お決まりのやつが」
「うーん…、私も、カウントダウンの後のことは、よく、分からないな…」
言い出しっぺのその、まさかの言葉に、今度は、部長が、きょとんとする番だった。
彼の視線が、未来さんへと向けられる。
そして、三人の視線が、私へと集まる。
私も、もちろん、知らない。
私の思考ルーチンは、今、この、予測不能な状況を、どう処理すればいいのか分からずに、フリーズしていた。
その、私たちの、あまりにも、世間知らずなやり取り。
それを見て、黙って、微笑んでいた、あかねさんが、くすくすと、笑いを、堪えきれない、といった、様子で、肩を、震わせている。
「…もうみんな、本当に、卓球のことしか、知らないんだから!」
彼女は、先程も話したようなことを言って、涙を拭いながら、続けた。
「普通はね、このままみんなでお参りして、おみくじ引いたり、お守り買ったりするんだよ!そして、初日の出まで、おしゃべりしたり、屋台で、何か食べたりするの!」
その、彼女の言葉に、私たちは、ようやく、自分たちのすべきことを理解した。
「なるほどな!要は、ここからが、本番ってことか!」
部長が、再び、気合を、入れ直している。
「おみくじ!いいね!やろうよ、しおり!」
あおが、私の手を、引いて駆け出そうとする。
未来さんも、「…なるほど。新年の運勢という、不確定要素を、観測するのですね。興味深い、文化です」と、その瞳を輝かせている。
私は、そんな仲間たちの、姿を見て、思わず笑ってしまった。
そうだ。
私たちは、何も、知らない。
卓球以外の、世界のことを。
でも、それでいいのかもしれない。
こうやって、一つ一つ、みんなで、一緒に覚えていけばいいのだから。
私は、あおの手を、強く握り返した。
「…ええ、あお。私たちの、新しい一年の始まりが、ここから始まるんだよ」
その声は、自分でも、驚くほど明るく、そして、希望に満ちていた。
私たちの、長い長い夜は明け、そして、新しい朝が、始まろうとしていた。