年越し(6)
その瞬間が来るのを、私もまた、静かに、そして確かに、楽しみにしている、自分に気づいていた。
あかねさんの、楽しそうな、説明が終わり、私たちは、再び、それぞれの想いを胸に、静かな時間を、過ごしていた。
あと、数分で、今年が、終わる。
そして、新しい年が、始まる。
スマホの画面に表示される、デジタル時計の数字が、23時59分を、指した、その瞬間。
それまで、ざわついていた、境内の空気が、すっと、変わったのが、分かった。
誰もが、口を閉じ、そして、どこか、祈るような表情で、その瞬間を、待っている。
その、どこか厳粛な雰囲気に、私もまた、息をのんだ。
隣では、あおが、私の手を、ぎゅっと、握りしめている。その手には、期待と、緊張が、混じった汗が、滲んでいた。
部長も、あかねさんも、そして、未来さんも、皆、同じ方向を、見つめている。
その、視線の先には、きっと新しい年という、希望の、光が、あるのだろう。
やがて、誰からともなく、その声が、始まった。
それは、小さなさざ波のように広がり、そして、大きな、うねりとなって、この、聖なる空間を、満たしていく。
「10、9、8、7…」
私も、その声に、合わせるように、小さく、唇を、動かす。
「6、5、4…」
これまでの、一年間。
私にとっては、激動の、一年だった。
部長、あかねさん、未来さんとの、出会い。
あおとの再会。
そして、数々の、戦い。
私の「静寂な世界」は、彼らによって壊され、そして、新しい温かい光で、満たされていった。
「3、2、1…」
「「「――ゼロ!あけまして、おめでとう!!!」」」
その、瞬間。
境内にいた、全ての人々の、喜びの声が爆発し、そして、夜空へと響き渡った。
遠くで、除夜の鐘の音が、厳かに、鳴り響く。
隣であおが「おめでとう、しおり!」と、満面の笑みで、私を抱きしめる。
「おめでとう、みんな!」
「おう、おめでとう!」
「おめでとう、ございます」
あかねさん、部長、未来さんも、皆、晴れやかな顔で、笑い合っている。
私は、その温かい、光の輪の、中心でただ、静かに、夜空を、見上げていた。
私の頬を、一筋、熱い何かが、伝っていく。
それはもう、悲しみの、ものでは、ない。
(…ありがとう)
私は、心の中で、そう呟いた。
私を、支えてくれる全ての、仲間たちへ。
そして、私を生んでくれた、この世界へ。
私の、新しい年は、どうやら、これまでにないほど、温かく、そして希望に、満ちたものとなりそうだ。