年越し(4)
その、果てしなく、続くかのように思える石段を、私たちは、笑い合いながら、また一歩、一歩と、登っていく。
そして、ついに、最後の一段を、登り切った時。
私たちの目の前に、荘厳な、神社の境内が、広がった。
「はぁ…はぁ…。着いたね…」
あおは、膝に手をつき、肩で大きく、息をしていた。
「…やっと、私の、予測では、あと、二段ほど、残っている、計算でしたが」
私も、呼吸を荒くしている。
「二人とも、大丈夫?」
あかねさんが、そんな私たちを、見て楽しそうに、笑っている。
なぜ、こんなに、元気なんだ…。
その時だった。
「皆さん、お疲れ様です」
未来さんが、いつの間にか、持っていた大きな魔法瓶を取り出し、そして、紙コップに、温かい湯気の立つ液体を、注ぎ始めた。
甘いチョコレートの、香りが、ふわりと、漂う。
「わ、ココアだ!ありがとう、未来ちゃん!」
「気が利くな、未来!」
あかねと部長が、嬉しそうに、それを受け取る。
私もあおも、それに、続いた。
私たちは、境内の隅にある、ベンチに腰掛け、その、温かい、ココアを飲む。
冷え切った、体に、その温かさと、甘さが、じんわりと、染み渡っていく。
「はー、生き返るなー!やっぱ、疲れた後の、甘いもんは、最高だぜ!」
部長が、満足そうに、言う。
「うん!すっごく、美味しい!未来ちゃん、ありがとう!」
あかねさんが、満面の、笑みだ。
「…ええ。冷えた、体に、染み渡りますね」
未来さんが、静かに、微笑む。
「しおりと一緒に飲むココアは、世界一、美味しい!」
あおが、私の腕に絡みつきながら、言う。
そして、私は。
私は、そのココアを、一口飲んで、そして、不思議な、感覚に囚われていた。
(…あれ…?)
(このココアの味…。家で、いつも、飲んでいるものと同じはずだ。同じメーカーの同じ商品。パラメータに、違いは、ない、はず)
(なのに、なぜだろう)
(いつも、飲むものと、味が違う、気がする)
いつもの、それは、ただの、糖分と、カカオの混合物。
私の脳に、一時的な、エネルギーを、供給するための、ただの、液体。
でも今、私が、飲んでいる、これは、違う。
もっと、温かくて、もっと、甘くて、そして、どこか、優しい味がする。
(…これも、また、感情という、パラメータが、もたらす、幻覚、なのだろうか)
(一緒に、同じものを、飲むと、美味しく、感じる。…なるほど。興味深い、データだ)
私は、隣で、嬉しそうに、ココアを、飲むあおの横顔を、盗み見た。
その、笑顔を、見ていると、私の、胸の奥が、また、ぽかぽかと、温かくなっていく。
この、温かさの、正体を、私は、まだ、知らない。
でも、それが、決して、悪いものでは、ない、ということだけは、確かだった。
私たちは、そうやって、新しい、年の、始まりを、静かに、そして、温かく、待っていた。