年越し(2)
12月31日、大晦日。
夜の、冷たい空気が、肌を刺す。
私たちは、指定された、駅前の時計台の下に、集まっていた。
その場所は、あの日、私が、あおと、二人で会った、思い出の場所。
隣にはもちろん、あおがいる。その手は、私の、コートの袖を、ぎゅっと握りしめている。
寒さのせいか、あるいは、ただ、私と一緒に、いられる、喜びのせいか。
「うわー!すごい人だね!」
あかねさんの、弾むような声。
その声に、部長が、頷く。
「ああ。祭りってのは、こうでなくっちゃな!」
未来さんは、静かに、しかしその瞳は、周りの人々の熱気を、興味深そうに観察していた。
私たちは、その人混みを、かき分けるようにして、神社へと向かう。
私の左手には、あおの手の、温かさ。
私の右手には、未来さんが、いつの間にか握らせてくれた、温かいココアの、紙コップ。
私の前には、私を守るように、人混みをかき分けてくれる、部長の大きな、背中。
そして私の、後ろからは、あかねさんの、楽しそうな、笑い声。
(…これらの変数が、私の思考に、ポジティブな影響を、与えている。興味深い、現象だ)
これが、富永先生の言っていた「アクセル」と「ブレーキ」なのだろうか。
「しおり、寒くない?大丈夫?」
あおが、心配そうに、私の、顔を、覗き込む。
「…大丈夫、この程度の、低温下での身体機能の維持は、子供の頃に、慣らされているから」
私のその、少し寂しげな声に、あおは「そっか…」と、話す。
その優しさを見て、私の口元は、ほんのわずかに、緩んだ。
そうだ。
これが、今の、私。
氷の仮面と、温かい、心。
その二つが、奇妙なバランスで、同居している状態。
冷徹な分析をしながらも、仲間たちの温かさを、確かに、感じている。
平坦な言葉を紡ぎながらも、その心は、確かに笑っている。
(…悪くない)
私は、心の中でそう、呟いた。
この、不安定でそして、どこかちぐはぐな、自分もまた、私なのだと。
そして、この仲間たちと一緒なら、この新しい自分も、悪くない、と、そう思えたのだ。
私たちは、神社の、長い長い、石段を、登っていく。
その先には、きっと、新しい年が、そして私たちの、新しい物語が、待っているはずだ。
私は、隣にいるあおの、手を、ほんの少しだけ強く、握り返した。
その、温かさを、確かめるように。