年越し
私たちの、新しい日常が、始まった。
数日間、私たちは、練習を重ねた。
後藤さんや、高橋先輩も、時間がある時には、顔を出してくれた。
その、ハイレベルな練習の中で、後藤先輩に、指摘された、私の課題。
「コントロールの高さを、攻撃に転用する」という、新しいテーマ。
私の思考ルーチンは、その、難解な課題に対し、仲間たちとの膨大なラリーのデータを基に、新しい最適解を、導き出していく。
相手の予測の、さらに、二歩、外側を突く、厳しい、コース取り。
威力はなくとも、相手の体勢を、確実に崩すための、一撃。
私のコントロールでの攻撃性を高めるドライブが、少しずつ、完成形になってきた頃。
その日は、やってきた。
練習の、終わり。
体育館の、片付けをしながら、部長がぽつりと、呟いた。
「…やべえな。気付けば、もう、12月29日か」
その、言葉に、私たちは、はっと、顔を、上げる。
「明日からは、市民体育館も休業だし、どうするか…」
そうだ。
年末年始。
全国大会まで、もう時間がないというのに、練習場所が、ない。
その、重い事実に、その場の空気が、少しだけ、沈んだ、その時だった。
その空気を、吹き飛ばすように、あおが、満面の笑みで、手を叩いた。
「だったら、みんなで、お参りカウントダウン、しよ!」
「…お参り、カウントダウン?」
あかねさんが、不思議そうに、首を傾げる。
「うん!私には、当てが、あってね!」
あおは、そう言って、悪戯っぽく、笑った。
「大きな神社なんだけど、そこ、毎年、年越しのカウントダウンやってるんだ!すっごい人で、賑わうんだよ!みんなで、そこに行って、年を越して、そしてそのまま、初詣で全国大会の、必勝祈願するの!どうかな!?」
彼女のその、太陽のような提案。
それは、あまりにも魅力的で、そして楽しそうだった。
「おおっ!いいじゃねえか、それ!面白そうだ!」
真っ先に乗り気になったのは、部長だった。
「私も、行きたい!みんなで年越しなんて、楽しそう!」
あかねさんも、目を輝かせている。
未来さんは、静かに、しかし、その瞳の奥に強い、興味の光を宿らせて、頷いた。
そして、全員の視線が、私へと集まる。
私は、少しだけ、思考を巡らせた。
私の、思考ルーチンが、新しい、答えを、導き出す。
(…仲間たちと過ごす、時間。それは、私の、精神に対し、有意なプラスの影響を、与える可能性がある。合理的、判断だ)
…そしてなにより、楽しそうだ
「……いいでしょう。私も、行く」
私の、その一言に、葵とあかねさんが「やったー!」と、声を上げて、ハイタッチをしている。
その光景を見て、私の口元も、ほんのわずかに、緩んだ気がした。
私たちの、短い冬休みは、どうやら、最高に騒がしく、そして温かい、イベントで、締めくくられることになりそうだ。