お泊まり会(12)
その、何気ない共同作業が、私の心を、温かいもので満たしていく。
千を優に超えるであろう練習球。それを二人で、黙々と、片付けていく時間は、不思議と、少しも苦ではなかった。むしろ、彼女のその、孤独な戦いの軌跡を、私が、こうして、一緒に分かち合えることが、誇らしかった。
全てのボールを、片付け終えた頃、しおりは、自分の汗で、濡れた服を見て、言った。
「…少し、シャワーを、浴びて、着替えてきます。」
「うん、分かった」
彼女はそう言うと、静かに練習場を、後にした。
一人、残された、練習場。
私は、自分の着ている服を、見た。
そうだ。私も、昨日の夜から、ずっとこの、ふわふわの、ロリータ服を、着ているんだった。
その事実に、気づいた瞬間、私の顔が、カッと熱くなる。
私は慌ててリビングへ戻ると、いつの間にか、洗濯され、乾燥機にかけられていた服が、ハンガーにかけられていた、しおりに感謝しながら、自分の服へと袖を通す。
着替えを終え、ふと、自分の服の、匂いを嗅ぐ。
そこから香るのは、しおりの家と同じ洗剤の、優しい、匂いだった。
その香りに、包まれていると、なんだかしおりに、包まれたように感じて、私の心は、また幸せな、気持ちに、浸っていた。
そんな私の思考を断ち切るように、しおりが、リビングへと戻ってきた。
彼女はもう、いつもの、シンプルな私服に、着替えている。
「あお。昨日の、カレーを温めて、朝御飯にするよ。」
「うん!」
私は、満面の笑みで、頷いた。
キッチンから、カレーのいい匂いが、漂ってくる。
私たちは、ダイニングテーブルで、向き合って、朝食を、食べた。
「昨日はありがとうね、しおり。すっごく、楽しかった」
「…私も、かな」
彼女は、そう短く、答えるだけだったが、その横顔は、いつもよりも、ずっと穏やかだった。
その他愛のない会話を挟みながら、食べ終わる頃には、私の心の中には、一つの確信が、生まれていた。
私たちは、もう、大丈夫。
これからは、もう、一人じゃない。
二人で、一緒に、歩いていける。
その、確かな温もりを胸に、私は、新しい一日の、始まりを、感じていた。