お泊まり会(9)
どれくらい泣き続けて、そして、どれくらい、彼女の胸の中で、安心して眠ってしまっていたのだろう。
私が、次に目を覚ました時、部屋の中は、もう朝の、柔らかい光で、満たされていた。
(…あれ?私、いつの間に、寝ちゃったんだろ…)
私は、ゆっくりと、体を起こす。
そして昨日の夜の出来事を、思い出した。
しおりへの、告白。
彼女の、傷跡。
そして、彼女の胸の中で、泣き疲れて眠ってしまった私。
(う、うわあああああああ…!)
その、あまりの恥ずかしさに、私の顔が、カアッと、赤くなり、心臓が再び、ドキドキと、音を立て始める。
私は、慌てて時間と、そして、自分の状況を、確認しようとする。
だが、部屋には時計はない。
手探りで、自分のバッグを探し、そして、スマートフォンを確認すると、その画面には「AM 6:00」という文字が、表示されていた。
(ろ、六時!?早っ!)
普段の私なら、まだ、夢の中の時間だ。
(…ってことは…もしかして…)
私の頭に、ある考えが、浮かび上がる。
(…しおりの寝顔、見れるかもしれない…!)
そういえば昔も今も、彼女の寝顔なんて、一度も見たことがないな、と、ふと思う。
私は、期待に胸を、膨らませながら、そっと隣を、見た。
だが。
隣にいるはずの、しおりの姿は、なかった。
シーツは、綺麗に整えられている。
(…あれ?どこに、行ったんだろ…?)
私がそう思い、耳を澄ますと、どこからか、微かに音が、聞こえてきた。
コツ、コツ、コツ、という、僅かな、白球が跳ねる音。
私は、その音に導かれるように、ベッドを抜け出し、そして、練習場への扉を、そっと、開けた。
そして、私は、見てしまったのだ。
私の知らない、もう一つの、彼女の姿を。
そこにいたのは、昨日の夜、私が着ていた、あの白いロリータ服とは、色違いの、黒いそれを着た、しおりだった。
ふわふわのフリルと、リボンがたくさんついた、可愛い服を着た、彼女。
その姿は、まるで、お人形さんのようだった。
だが、彼女がしていることは、その可憐な姿とは、あまりにも、かけ離れていた。
彼女は、卓球マシンと、対峙していた。
そこから放たれる、弾丸のようなボール。
それを彼女は、一球一球、表情一つ変えずに、ただ、淡々と、ストップで、返していく。
彼女の周りには、1000球は越えそうな練習球が、無数に、転がっていた。
それは、彼女が、私が眠っている間、ずっとこの単調な練習を、繰り返していた、という、何よりの証拠。
その可愛らしい姿と、狂気のような練習量との、あまりのギャップ。
私は、その異様な光景に、何も言えずに、ただ呆然と、立ち尽くしているだけだった。
彼女はまだ、私の存在に、気づいていない。
ただひたすらに、ボールを打ち返す。
その横顔は、私が知っている、どの彼女とも、違っていた。
それは「魔女」でも「英雄」でもない。
ただひたすらに、自らの道を突き進む、一人の孤独な、求道者の、姿だった。