お泊まり会(6)
しおりが、お風呂場へと消えた後。
一人残された、私の心臓は、もう限界だった。
顔が、熱い。
頭が、くらくらする。
ドキドキが、止まらない。
私は、そのどうしようもない、感情の奔流を逃がすように、リビングの中を、行ったり来たりと、意味もなく歩き回っていた。
(色違い…?お揃い…?)
(ってことは、つまりしおりも、これと同じデザインの、服を着る、ってこと…?)
私の頭の中に、その光景が、浮かび上がる。
いつも冷静で、無表情で、そして、少しだけ冷たい、あのしおりが。
フリルとリボンが、たくさんついた、ふわふわの、可愛いパジャマを、着る姿。
その、ギャップ。
可愛すぎる、しおりの姿の想像が、止まらない。
私はその場で、蹲り、悶々と、頭を抱えた。
どれくらいの、時間が、経っただろうか。
カチャリ、と、音を立てて、お風呂場のドアが、開いた。
私は、恐る恐る、そちらを見る。
そして、私の思考は、再び、完全に停止した。
そこに立っていたのは、私の想像を、遥かに超える破壊力を持った、しおりの姿だった。
彼女は、私が着ている、白い服の、色違い。
フリルの多い、黒いロリータ服に、身を包んでいたのだ。
少し濡れた黒髪。少しだけ上気した、白い肌。そして、その、黒い衣装との、コントラスト。
その姿は、もはや「可愛い」という言葉では、表現できない。
まるで、物語の中から抜け出してきた、お人形さんの、ようだった。
「――っ!」
私は、もう、何も考えられなかった。
気づけば、私は、彼女の元へと、駆け寄りそして、その小さな体を、力強く抱きしめていた。
「可愛すぎるよ、しおり…!反則だよ、それは…!」
私のその、衝動的な行動に、彼女は少しだけ驚いたようだったが、すぐに、ふふっ、と、楽しそうに笑った。
そして、私の耳元で囁いたのだ。その声は、やはり、どこまでも甘く、そして、私の心を、かき乱す。
「…ありがとうあお。でも今日は、もう疲れたから、そういうのは、ベッドでお願い」
「え…?べ、ベッド…!?」
その、あまりにも、破壊力の、高い言葉。
彼女は、そんな私の動揺などお構いなしに、私の手を引き、そして寝室へと案内する。
そこにあったのは、部屋の半分を占めるほどの、大きな、キングサイズのベッド。
そうか。しおりが、誰かを泊めることなど、想定しているはずもなく、ベッドは一つしかないのだ。
「え、え、え、で、でも、私は、いいよ!ソファーで、寝るから!」
私がそう言って、後ずさりすると、彼女は、不思議そうに、首を傾げた。
「なぜ?冬だよ?寒いよ?」
「う…」
「それに、私と一緒に寝るのは、嫌?」
彼女がその、ガラス玉みたいな、瞳で、私を、上目遣いで見つめてくる。
そんな顔で、そんなことを、言われたら、私が断れるわけ、ないじゃないか。
しおりと寝る、という誘惑に、私は耐えきれず、結局、二人で寝ることになった。
広いベッドの中で、私たちは、並んで横になる。
私の心臓は、もうずっとドキドキと、音を立て続けている。
私は、もう、我慢できなかった。
彼女のその、温かい体を、求めるように、ぎゅっと、べたべたと、くっつく。
しおりは、そんな私を、特に気にする様子もなく、ただ静かに、受け入れてくれている。
その優しさが、どうしようもなく、嬉しい。
「…おやすみ、あお」
「…うん。おやすみ、しおり」
私たちは、そう、言って、目を、閉じた。
私の、最高の冬休みは、どうやら眠りにつくまでドキドキが止まらない、最高の夜と、なりそうだ。