お泊まり会(5)
練習で、汗だくになった私たちは、お風呂へと向かうことになった。
脱衣所で、しおりが、私に言った。
「あお、先に入って。私は、あなたの着替えを用意してくるから」
「え、そんな悪いよ!」
「いいから。着替えとか、持ってきてないでしょ?」
彼女は、そう言って、有無を言わせない眼差しで、私を見る。
「準備しておくから、入っていて」
その言葉に、私は、頷くことしかできなかった。
一人、シャワーを浴び、そして広いお風呂に、体を沈める。
ふう、と、息を吐き出すと、一日の疲れが、溶けていくようだ。
私は、ぼんやりと考えた。
(しおりの着替えって、どんな感じなのかな…)
(やっぱり、白とか黒とか、モノトーンの、シンプルな感じ?それとも、意外と可愛い系だったりして…)
そんなことを想像して、私の顔が、少しだけ熱くなる。
お風呂から上がると、脱衣所の棚の上に、きちんと畳まれた、着替えが置かれていた。
それを見て、私の思考が、完全に停止する。
そこに置かれていたのは新品の下着と、そして、白くてふわふわした、フリルとリボンがたくさんついた、ロリータ系統の、パジャマだったのだ。
こんな、可愛い服、着たことない…!
私が、そんな服を着たら、滑稽なだけだ。
でも、しおりが、私のために用意してくれたものだ。断るなんて、できない。
私はおそるおそる、その服に、袖を通した。
すると、どうだろう。
まるで、あつらえたかのように、サイズがぴったりだった。
(…でも、この服…どこかで、見覚えがある…)
私は、首を傾げる。
そして、思い出した。
そうだ。これはこの前、しおりと一緒に、ウィンドウショッピングを、した時に見た、可愛い服だ!
「しおりが着たら、絶対可愛いだろうな」って、私が、言った、あの服。
まさか、買っていたなんて。
私が、そんな驚きと、そして、込み上げてくる、喜びを胸に、ダイニングに行くと、しおりが私を見て、満足そうに、頷いた。
「…やはり、私の、分析通り。サイズが、合っていて良かった」
「う、うん…。でも、この服、しおりが、着ているところ、見たかったのになー」
私がそう言って、少しだけ拗ねてみせると、彼女は、ふっと、悪戯っぽく、笑った。
そして、彼女は、私の耳元に顔を、近づけ、そして囁いたのだ。
その声は、いつになく甘く、そして私の心を、かき乱す響きを持っていた。
「――大丈夫だよ、あお。色違い、買ってあるから」
「え…っ!?」
「お揃いだね」
その言葉と共に、彼女は、くるりと私に背を向け、お風呂場へと、消えていく。
一人残された私の心臓は、もう限界だった。
顔が、熱い。
頭が、くらくらする。
ドキドキが、止まらない。
私の、最高の冬休みは、どうやら甘くて、そして、少しだけ、意地悪な罠で、満ちているらしかった。