黒い正義の分析
冬休みに入り、私たちは珍しく、部活以外の用事で集まっていた。
駅前の、ファミレス。
他愛のない会話が飛び交う中ふと、あかねさんが、思い出したように切り出した。
その表情にはまだ、あの日の怒りと、そして困惑が浮かんでいる。
「…それにしても、やっぱり、信じられないよ!あのれいかさんって!なんであんなに、偉そうなの!?『卓球を辞めてくれたら、クラスの中心に引き立ててあげる』だなんて、何様のつもりなんだろう…!」
そのあかねさんの純粋な怒りに、部長もまた腕を組み、力強く頷いた。
「ああ!思い出しただけで腹が立ってくるぜ!あんな上から目線の提案、よくできたもんだ!」
だがそんな二人の反応とは、対照的に私と未来さんは、やはり、というように静かだった。
私は、ただ黙って、シェイクのストローをかき混ぜている。
未来さんは静かに、紅茶を一口含み、そしてゆっくりと口を開いた。
それはまるで、難解な詰め将棋を解説する、棋士のような、落ち着き払った口調だった。
「…おそらく、青木れいかさん、という人間は」
未来さんのその言葉に、部長とあかねさんが、彼女の方へと、向き直る。
「彼女がいる世界…つまり、教室というコミュニティにおいて、絶対的な中心人物なのでしょう。いわゆるクラスのリーダー、という、ものです。」
「そして特に、中学生という、多感な時期は、時に、分は何でもできるという、ある種の万能感を抱いてしまいがちです。世界は、自分の思い通りに、動くものだと信じてしまう」
未来さんの、諦観も混じった、その冷静で、そして的確な解説。
「その彼女の完璧な世界に、突如現れたのが、しおりさんという『異端者』です。彼女の理解を超え、そして自分の思い通りにならない、コントロール不能な『異物』。だから彼女は、それを排除しようとした。 あるいは、自分の管理下に置くことで『正そう』とした。彼女の中では、それは純粋な、正義の行動だったのでしょうね」
そのあまりにも的確な分析に、部長とあかねさんは、言葉を失っていた。
「…なるほどな。自分こそが正義のヒーローだと、本気で、思ってやがったのか、あいつは」
部長が、呆れたように、呟く。
私は、シェイクを飲みながら、静かに頷いた。
あかねさんが、心配そうに、私を見る。
「でも、そんなのおかしいよ!しおりちゃんは、何も悪いこと、してないのに…!」
「ええ。ですが、彼女の世界では、彼女のルールこそが、絶対なのです」
私は、静かに答える。
「そして、そのルールから外れた異物は、全て排除されるべき悪となる。…それだけのことです」
私の、そのあまりにも冷静な言葉に、その場の空気が、少しだけ、重くなる。
だが、部長がその、空気を断ち切るように、バン!と、テーブルを、叩いた。
「…まあ、理屈は、どうでもいい!要は、だ!しおりには俺たちが、ついてる!あいつが何を、しようが、俺たちが全員で、しおりを守る!それだけだろ!」
そのあまりにも、単純明快でそして、力強い宣言。
それに対し私と、未来さんとあかねさんは、顔を見合わせ、そして同時にふふっ、と、笑ってしまった。
そうだ。
それで、いいのだ。
どんな複雑な悪意も、この単純で、そして温かい、光の、前では、きっと、意味を、なさないのだから。
私たちの、戦いは、まだ、終わらない。
でも、もう、一人じゃない。
全国大会の直前、私たちは、静かな一体感を味わっていた。
本日も、最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
本日のお話は、あまり共感が得にくいものと思います、しかし、私なりに中学生のいじめの本質を紐解いた結果、れいかさんのような、歪んだ正義感が生まれるのかなと思いました。彼女たちは、悪いことをしているとは思っていないのです。中学生の彼女たちの世界は、教室が大きなウェイトをしめると思うのです。
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改めて、読みにくいお話を、お読みいただきありがとうございました。