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異端の白球使い  作者: R.D
探し物
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新たな翼(2)

 私の「静寂な世界」に、仲間という温かい光が差し込んでから、数日が過ぎた。


 あの日ラケットを破壊された出来事は、私の心の奥底に、深い傷跡を残した。


 だが、その傷は、もはや私を絶望の淵へと突き落とすものでは、ない。


 むしろそれは、私をさらに強く、そして冷徹に進化させるための、新しいエネルギー源となっていた。


 その証拠として、私がもっている、ラケットケースは、以前のものよりも、一回り大きい。


 中には、三本のラケットが収められている。


 メインで使う、スーパーアンチラバーのラケット。


 その予備。


 そして三本目。私が新たなる武器として手に入れた、『Abs』を貼った、ラケット。


 いつまた翼を折られても、いいように。


 私は常に、次の翼を用意しておく。


 その日の、放課後。


 練習が始まる前、顧問の先生が、部員全員を集めた。


 その表情は、いつになく真剣だった。


「みんなに連絡と、注意がある」


 先生は静かに、しかし力強い声で言った。


「先日、ここの部室で、部員の私物が破らわされる、という事件があった。幸い、大事には至らなかったが、これは決して許されることではない。今後は練習中、そして練習後、部室の戸締りを徹底すること。 そして万が一、部活以外の時間帯に、部活外の人間が、このあたりをうろついているのを見かけたら、すぐに私たち先生か、他の部でもいいから部長達に、報告するように。 いいな」


 その言葉に、部員たちがざわめく。


 何人かの視線が、ちらりと私へと向けられるのが、分かった。


 そうか。


 部長が顧問に共有したのか。私のラケットの、一件を。


 先生のその言葉は、犯人への警告であり、そして、私を守ろうとする彼なりの意志表示だった。


 練習が、始まる。


 私はいつも通り、一人、卓球マシンを相手に、黙々と、ボールを打ち続ける。


 周りからの、視線は、もう、気にならない。



 私がマシンの設定を切り替え、新しい戦術の、シミュレーションを開始しようとしていた、その時だった。


「…しおりさん」


 静かな声。


 振り返ると、そこには、未来さんが立っていた。


 その瞳は、私が手にしている、新しいラケットケースへと、注がれている。


「その、ラケットケース。最近、新調なされたのですね。少し、大きいようですが」


「ええ。予備です」


「…予備だけ、ですか?」


 彼女のその、全てを見透かすような、問い。


 私は観念して、ケースのジッパーを、開けた。


 そして、その中から先日、作ったばかりの、『Abs』を貼ったラケットを、取り出す。


 その黒く、そして異質な輝きを放つラバーを見て、未来さんの瞳が、強い興味の光で、きらめいた。


「…これは、『Abs』のアンチスピン…。しおりさん、あなた、こんな、面白いものを隠し持っていたのですね」


 彼女は、まるで新しいおもちゃをみつけた、子供のように、その瞳を、輝かせている。


「…しおりさん。もし、よろしければ」


 彼女の続く言葉は予測できる。


「いいでしょう、やりましょうか、オールコートの二本交代でいいですか?」


 私は、提案が飛んでくる前に挑戦を受け入れる。


 未来さんは静かに頷き、そして卓球台を挟んで、彼女と向き合った。


 私の「実験」の相手として、これほど相応しい存在は、いないのだから。

 本日も、最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。

 しおりたちの心の旅路に、少しでも何かを感じていただけたなら、作者としてこれ以上の喜びはありません。

 もしよろしければ、ページ下の[☆☆☆☆☆評価]や[ブックマーク]で、そっと応援の気持ちを伝えていただけると、この物語を続ける大きな、大きな力になります。

改めて、お読みいただきありがとうございました。

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