未来への約束(2)
「…また、来ましょう。約束です」
しおりの、その、言葉。
その、未来への、約束。
私の心の中で、何かが弾ける。
ああ、あなたはちゃんと、前に、進もうとしているんだね。
私と、一緒に。
私の、瞳から、熱い何かが、零れ落ちそうになるのを、必死に堪えた。
そして、精一杯の、笑顔で、頷き返す。
「…!?、うん!」
もう、これで今日という、特別な一日は、終わりなんだろうな。
そう、思っていた。
でも、彼女は、私を、驚かせた。
「葵。これから、どこに、行きましょうか。」
「え?」
私の、思考が、一瞬、停止する。
「いいの?もっと、一緒に、いてくれるの?」
彼女は、静かに、頷いた。
「はい。まだ、時間も、ありますから」
「う、うん!私は、しおりがいいなら、どこでもいいよ!例え、富士山の、てっぺん、だって!」
私は、自分でも、何を言っているのか分からないくらい、舞い上がっていた。
だって、これは、もう変わっては、しまったけれど、大好きな人との、初めてのデートみたいなものだから。
彼女が、提案したのは、「ウィンドウショッピング」という、行為だった。
その理由が「人間がどう、ポジティブな感情を形成するのか、観測したい」という、あまりにも、今の彼女らしいものだったから、私は、思わず笑ってしまった。
私たちは、駅前の商店街を、歩き始めた。
私の隣を、歩くしおり。
その横顔を盗み見るだけで、私の心臓は、ドキドキと、高鳴っていく。
何年もの間、夢にまで、見た光景。
彼女は、ショーウィンドウに飾られた、洋服を指差した。
「葵。あれは、客観的に見て『かわいい』という、カテゴリに、分類される、デザインですか?」
(…ふふっ、客観的に見て、だって)
その、不器用さが、愛おしい。
彼女は、きっと、たくさんの感情を、心の奥底に、仕舞い込みすぎて、その感じ方すらも、忘れてしまったんだろう。
だから、今、こうやって、一つ一つ、答え合わせを、するように、確かめているんだ。
「うん!あのフリルとか、リボンとか、すっごく可愛いと思うよ!しおりが着たら、きっと可愛いだろうなぁ」
私が、そう、言うと、彼女は、「私が、着る、という、シミュレーションは、不要です」なんて、真顔で、言うものだから、また、笑ってしまった。
「じゃあ、あの、黒い、ジャケットは?」
「うん!しおりが、着たら、絶対、似合いそう!」
楽しい。
ただ、こうやって、彼女と他愛のない会話をしているだけで、私の世界は、キラキラと輝いていく。
そうして、私たちはしばらく、商店街を歩いていた。
そして、私は気づいた。
彼女の足が自然と、一本の通りへと、迷いなく向かっていることに。
彼女は、何も、言わない。
でも、私には、分かった。
彼女が、ここへ、私を、連れてきてくれた、という、その、意味が。
彼女の、その一番、大切な場所に、私を招き入れて、くれようとしているんだ。
私は、もう何も言わずに、ただ静かに、そして優しく、彼女の、隣で寄り添うように、歩いた。
その無言の時間が、今の私には、何よりも心地よかった。
私の、新しい、「救済」は、まだ、始まったばかりだ。
それは、彼女の、仮面を、壊すことじゃない。
彼女のその氷の下の、本当の優しさと、不器用さと、そして弱さ、その、全てを丸ごと愛し、そして、支え続けること。
大丈夫だよ、しおり。
私は、もう、どこにも、行かないから。
あなたの、一番、近くで。