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異端の白球使い  作者: R.D
探し物
375/674

崩れる壁

 ブロック大会での、優勝。


 その事実は、第五中学、卓球部に大きな栄誉を、もたらした。


 だが、その裏側で、私に対する、評判は、どんどん、地に落ちていた。


「なあ、あれ、静寂しおりだろ…」


「やばい、目を、合わせるなよ…」


「彼女と戦った、相手、心が折れて、棄権したんだって…」


 学校での噂を越え、地域の卓球観戦の人たちの間でも、そんな、声が、囁かれるようになっていた。


 私の卓球は「強い」では、なく、「恐ろしい」あるいは「残酷だ」と。


「予測不能の魔女」という二つ名は、もはや賞賛ではなく、畏怖と、そして軽蔑の、対象となっていた。


 私は、そんな周りの声を、気にしていない、ふりをしていた。


 練習中も、私は、いつも通り、一人、卓球マシンを、相手に、完璧な、フォームで、ボールを、打ち続ける。


 私の「静寂な世界」は、外部からの、ノイズに、影響されることはない。


 私の、思考ルーチンは、それらの、非合理的な、情報を、全て、無意味な、データとして、処理し、そして、削除するはずだった。


 そのはずなのに。


 なぜだ。


 私の、システムは、正常な、はずだ。


 なのに、その不快な、ノイズが、頭から、離れない。


 そして、そのノイズは、私の、心の奥底に、これまで、感じたことのない、奇妙なパラメータの異常を、引き起こしていた。


 胸の、奥が、ちりちりと、焼けるような、不快感。


 そして、どこか、息苦しい、圧迫感。


(…これが「感情」…?「悲しい」あるいは、「寂しい」と、分類される、データ、なのか…?)


(馬鹿な。私が?私が、こんなノイズに、心を、乱されている、というのか?それは、あまりにも、非合理的だ。私は、強く、ならなければ、ならないのに…)


 私が、気にしてることが、私自身、意外だった。


 この、変化に、私は、戸惑っていた。


「しおりちゃん、お疲れ様!すごい、集中力だね!」


 あかねさんが、いつものように、太陽みたいな、笑顔で、タオルと、ドリンクを、持ってきてくれた。


 その、声に、私は、はっと、我に返る。


「…ありがとう、ございます」


 私が、そう、言って、タオルを、受け取ろうとした、その時だった。


 彼女は、私の、目を、じっと、見つめて、そして、少しだけ、悲しそうな、顔で、言った。


「…ねえ、しおりちゃん。気にしなくて、いいんだよ。あんな、勝手なこと、言う人たちのことなんて」


「しおりちゃんの、卓球は、本当に、すごいんだから。綺麗で、そして、誰よりも、強いんだから。私が、保証する」


 その、あまりにも、真っ直ぐな、言葉。


 私の、心の、氷の壁に、また、一つ、温かい、光が、差し込んでくる。


 その、光が、心地良い、と、思う、自分と。


 その、光が、私の、システムを、狂わせる、と、拒絶する、自分。


 二人の、私が、私の、中で、激しく、ぶつかり合う。


 私は、何も、答えられない。


 ただ、彼女から、タオルを、受け取り、そして、顔を、うずめることしか、できなかった。


 その、タオルの、温かさが、なぜか、あの、葵の、手の、温もりと、少しだけ、似ているような、気がした。


 私の、本当の「戦い」は、もはや、コートの、中だけでは、なかった。


 この、私自身の、心の中にある、氷の壁を、どうするのか。


 その、答えの、出ない、新しい、戦いが、静かに、始まっていたのだ。



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