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異端の白球使い  作者: R.D
探し物
370/674

ホワイトアウト

 私の、本当の、物語は、今、ここから、始まるのだから。


 葵の、その、力強い、頷きを、胸に、私は、再び、コートへと、向かった。


 インターバルの、短い、時間は、あっという間に、過ぎ去る。


 第三セット。セットカウント、静寂 2 - 0 山上。


 これを、最後のセットにする。


 私の体力は、もう、限界に、近い。


 だが、心は、不思議と、軽かった。


 楽しい。


 ただ、純粋に、この、一球、一球を、打ち返せる、この、瞬間が、楽しい。


 試合は、序盤から、壮絶な、打ち合いとなった。


 山上選手も、もう、後がない。彼女は、これまでの、迷いを、振り払うかのように、その、得意な、速攻で、私に、襲いかかってくる。


 だが、今の、私には、もう、通用しない。


 私は、彼女の、その、速攻を、さらに、上回る、速攻で、応戦する。


 フォアハンドでの、ドライブの、応酬。


 その、中で、時折、見せる、バックハンドでの、アンチラバーの、変化。


 それは、もはや、戦術では、ない。


 私の、楽しむ、という、感情が、生み出す、即興の、音楽のようだった。


 山上選手は、ギリギリまで、私に、食らいついてきた。


 彼女もまた、素晴らしい、選手だ。


 その、闘志が、私の、心を、さらに、熱くさせる。


 静寂 9 - 3 山上


 マッチポイント。


 最後もまた、長い、長い、ドライブの、応酬だった。


 そして、最後は、私のフォアハンドドライブが、彼女のコートの隅へと、突き刺さり、この死闘に、終止符を、打った。


 静寂 11 - 3 山上


 試合終了。


 優勝…


 その、実感が、湧く前に、私の、体を、これまで、感じたことのない、凄まじい、疲労感が、襲った。


 足が、震える。


 視界が、ぐにゃりと、歪む。


 私は、ネット際に、歩み寄り、山上選手と、握手を、交わす。


 彼女の、悔しそうな、しかし、どこか、清々しい、顔。


 私は、何か、言葉を、かけようとしたが、声が、出なかった。


 ベンチに、戻る。


 未来さんが、心配そうに、私を、見ている。


 そして。


 観客席から、一人の、少女が、駆け下りてくる。


 あおだ。


 彼女もまた、涙で、ぐしゃぐしゃの、顔で、でも、満面の、笑みで、私の、元へと、走ってくる。


「しおりっ…!」


 ああ。


 あおが、私を、呼んでる。


 私が、ずっと、聞きたかった、声。


 私が、ずっと、見たかった、笑顔。


 私は、彼女に、応えるように、笑おうとした。


 だが、その、瞬間。


 私の、意識が、ぷつり、と、途切れた。


 世界が、白く、染まっていく。


 誰かが、私の、体を、支えようとしてくれる、感触。


「…あお…また…、ね…」


 私は、最後に、彼女の、名前を呟き、そして、その、深い、深い、闇の中へと、意識を、手放した。


 私の、新しい、はずだった、物語は、こんなにも、呆気なく、終わりを、告げるのだろうか。

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