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異端の白球使い  作者: R.D
決勝戦
368/674

夢幻泡影の少女(3)

 私は、コートへと向かう。


 その手の中には、もう一つ、新しい、「対話」の、答えが、握られていた。


 そして、私の胸の中には、これまで、感じたことのない、温かく、そして、力強い、感情が、満ちていく。


 卓球が、楽しい。


 この、強敵と、戦えることが、そして、仲間たちと、共に、いられることが、心の、底から、そう、思える。


 第二セット。セットカウント、静寂 1 - 0 山上。


 サーバーは、私。


 いまの私は、駆け引きをしない。


 私が放ったのは、ごく普通の、しかし、魂の乗った、トップスピンサーブ!


 山上選手は、その、私の、普通すぎるサーブに戸惑いながらも、力強いドライブで、返球してくる。


 ここから、試合の、様相は、一変した。


 私は、もうあの、アンチラバーを、隠さない。


 ラケットを、持ち替えない。


 ただ、ラケットの、赤い裏ソフトの面と、黒いアンチの面、その両方を、堂々と、使い分け、彼女と、真っ向から、打ち合う。


 卓球を、心から楽しむ、一人の、プレイヤーとして、山上選手へ、挑む。



 山上選手の、強烈な、ドライブを、私は、フォアハンドの、裏ソフトで、美しい、フォームで、打ち返す。


 回転と、回転の、応酬。


 それは、もはや、異端では、ない。


 その、高速のラリーの中で、ボールが、私のバックサイドへと、飛んでくる。


 私は、ラケットを、持ち替えない。


 そのまま、バックハンドで、ボールを、なぞる。


 黒いアンチラバーが、ボールに、触れた、瞬間。


 山上選手が警戒を最大限にしているのがわかった。


 私は、それを気にすることなく、それまで、ラリーを支配していた、ボールの、回転、スピード、それをそのまま返す、それは、摩擦係数がゼロではない、スーパーアンチラバーならではの、答え。


 ボールは、アンチラバーから放たれたはず、しかし、山上選手が放ったボールと同じ性質のボールが、相手コートへと、返っていく。


「なっ…!?」


 山上選手の、体が、固まる。


 彼女は、そのボールを、なんとか、持ち上げようとするが、回転がかかっていて、合わせられず、ネットに、かけてしまう。


 静寂 1 - 0 山上


 その、光景を見て、私は、確信した。


 これこそが、私の、新しい、「対話」の、形。


 そして、これこそが、過去と今の私が、辿り着いた、一つの完成された戦術なのだ、と。


 試合は、完全に、私の、ペースだった。


 私が、フォアハンドで、ドライブの、応酬に、応じれば、応じるほど。


 山上選手は、その、ラリーの、中に、いつ、あの、バックハンドからの「死んだボール」が、混じってくるのか、と、疑心暗鬼に、陥っていく。


 その、僅かな、思考の、ノイズが、彼女の、得意なはずの、速攻の、精度を、確実に、奪っていく。


 そして、甘くなった、ボールを、私は、見逃さない。


 フォアで、バックで、そして、時には、あの、新しい、武器、「滑らせる、アンチ」で、彼女を、翻弄していく。


 静寂 6 - 2 山上


 観客席が、どよめいている。


 ベンチの、未来さんの、瞳が、興味深そうに、細められる。


 あおの、涙で、濡れた、笑顔が、見える。


 私の、心は、かつてないほど、晴れやかだった。


 楽しい。


 卓球が、こんなにも、楽しいなんて、知らなかった。


 この、一球、一球が、愛おしい。


 この、瞬間、瞬間が、宝物だ。


 私の、本当の、戦いは、そして、私の、本当の、人生は、今、まさに、始まったばかりなのだ。

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