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異端の白球使い  作者: R.D
決勝戦
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泡沫夢幻の今(7)

 私たちは、決勝戦の、アナウンスを、それぞれの、想いを、胸に、待っていた。


 私の隣では、あおが、私の腕に、そっと、腕を絡ませている。その、温かさが、私の、胸の中に、じんわりと、広がっていく。


 その、私たちの、あまりにも、自然で、そして、親密な、やり取り。


 それを、少し、離れた、場所で、未来さんと、部長と、あかねさんが、少し、複雑そうな、表情で、見ていた。


 未来さんは、どこか、面白そうに、そして、ほんの少しだけ、寂しそうに。


 部長は、何が、何だか、分からず、ただ、困惑したように。


 あかねさんは、嬉しい、という、気持ちと、ほんの少しの、嫉妬が、混じったような、そんな、顔で。


 やがて、体育館に、アナウンスが、響き渡る。


 決勝戦の、開始時刻が、告げられたのだ。


「しおり、頑張って」


 あおが、私の手を、ぎゅっと、握りしめる。


「うん。行ってくるね、あお」


 私も、彼女の、手を、強く、握り返した。


 私と、未来さんは、指定された、Dコートへと、向かう。


 コートの、反対側には、既に、対戦相手である、城西中学の、山上選手が、待っていた。


 彼女の、その、佇まいには、一切の、隙がない。葵の、言った通り、全身から、「速攻」の、オーラが、溢れ出ている。


「「よろしくお願いします」」


 静かな、体育館に、二人の、声だけが、響く。


 試合が、始まった。


 第一セット。


 サーバーは、山上選手。レシーバーは、私。


 彼女が、放ったのは、速く、そして、回転の、いやらしい、ショートサーブ。


 私に、甘い、レシーブを、させ、そして、三球目で、確実に、仕留める、という、明確な、意志表示。


(…あなたの、土俵。分かっています)


 だが、私は、もう、逃げない。


 あなたの、その、速攻には、私もまた、速攻を、ぶつける。


 あなたの、土俵に、上がって、そして、あなたに、勝つ。


 それが、今の、私の、覚悟。


 私は、そのサーブに対し、一歩、台に、深く、踏み込んだ。


 そして、ラケットを、裏ソフトの面に、固定したまま、手首を、しなやかに、そして、鋭く、使った。


 二球目攻撃、チキータ!


 ボールは、強烈な、横回転を、帯び、彼女の、バックサイドへと、矢のように、突き刺さる。


 彼女は、私の、その、あまりにも、強気な、レシーブに、完全に、意表を、突かれていた。


 彼女の、ラケットに、ボールが、触れることは、なかった。


 静寂 1 - 0 山上


 よしっ!


 ベンチの、未来さんの、隣で、葵が、小さく、ガッツポーズを、しているのが、見えた。


 ここから、壮絶な、カウンター合戦が、始まった。


 山上選手が、三球目攻撃を、仕掛けてくれば、私は、それを、さらに、鋭い、カウンターで、応戦する。


 私が、四球目を、狙えば、彼女もまた、それを、読み切り、カウンターの、カウンターを、合わせてくる。


 台の上を、ボールが、目にも、留まらぬ、速さで、行き交う。


 それは、もはや、卓球では、ない。


 思考と、反射の、速度を、競い合う、コンマ数秒の、世界の、戦い。


 私の、思考ルーチンと、そして、私の、新しい「感情」が、この、高速の、ラリーの中で、完璧に、融合していくのを、感じていた。


 楽しい。


 心の、底から、そう、思える。


 この、強敵と、戦えることが。


 そして、この、仲間たちと、共に、いられることが。


 私の、本当の、戦いは、今、まさに、最高潮を、迎えようとしていた。

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