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異端の白球使い  作者: R.D
決勝戦
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泡沫夢幻の今(6)

「うん!本当におめでとうございます、部長先輩!しおりも、準決勝、勝ったんだもんね!」


 あかねさんも、そう言って、満面の笑みを、見せてくれた。


 その二人の、不器用な優しさが、私の胸の中に、じんわりと、広がっていく。


 そうだ。


 私の、周りには、もう、こんなにも、温かい、光が、満ちている。


 私は、もう、一人じゃない。


 決勝戦。


 その言葉の響きに、私たちは、一度顔を、見合わせ、そして、あかねさんが、明るい声で、言った。


「みんな!最後のトーナメント表の確認、しに行こっか!」


 私たちは、全員で、トーナメント表が、張り出されている、壁へと向かった。


 そして、私の名前の、その次の対戦相手の欄に、記されている、学校名と、名前を確認する。


 私が、その文字を、目で追っていると、隣にいたあおが、私の腕に、そっと、自分の、腕を、絡ませてきた。


 その、恋人のような、自然な距離感に、私の心臓が、少しだけ、速く打つのを、感じた。


「しおりの相手、城西中学の三年、山上さんだね」


 あおが、私の耳元で、そう囁く。


「…部長先輩の、相手は…!」


 あかねさんが、緊張した面持ちで、今度は、男子の、トーナント表を、目で、追う。


 その名前を見た、瞬間、部長の纏う空気が、一変した。


 ――常勝学園・朝倉 陽介


「…朝倉か。また、やることになるとはな」


 部長が静かに、しかし、その声の奥に、強い闘志を、みなぎらせて、呟いた。


 県大会の、決勝の、再現。


 因縁の、相手との、再戦。


「山上選手…。私、知ってるよ」


 あおが、私の顔を見上げて、言った。


「練習試合で、当たったことがあるんだ。すっごく、強かった」


「どんな、選手なの?」


 私が、そう尋ねると、あおは少しだけ、真剣な、表情になる。


「速攻重視の、ドライブマン。サーブも速くて、回転も、質が高い。特に、三球目攻撃や、五球目攻撃、それに、相手のボールを利用した、四球目攻撃が、得意で、とにかく、前のめりに、攻めてくる感じ。少しでも甘い、ボールを返したら、一気に、持ってかれちゃう」


 あおの、的確な、分析。


 私は、ただ、静かに、頷きながら、聞いていた。


 私の、頭の中では、既に対策の、シミュレーションが、始まっている。だが、それは、以前の、冷徹な、計算では、ない。


 目の前の、強敵に、どう、立ち向かうか、という、純粋な、闘志に、満ちた、思考。


「でも、大丈夫だよ、しおりなら!あの、青木桜に、勝ったんだもん!」


 葵が、私の、腕を、ぎゅっと、握りしめて、そう、言って、笑う。


 その、屈託のない、信頼。


 それが、今の、私にとって、何よりも、力になる。


「…うん。ありがとう、あお。頑張るよ」


 私も、彼女に、微笑み返した。


 その、私たちの、あまりにも、自然で、そして、親密な、やり取り。


 それを、少し、離れた、場所で、未来さんと、部長と、あかねさんが、少し、複雑そうな、表情で、見ていた。


 未来さんは、どこか、面白そうに、そして、ほんの少しだけ、寂しそうに。


 部長は、何が、何だか、分からず、ただ、困惑したように。


 あかねさんは、嬉しい、という、気持ちと、ほんの少しの、嫉妬が、混じったような、そんな、顔で。


 だが、彼らもまた、私たちの、その、関係性を、ただ、静かに、受け入れてくれている。


 その、温かい、空気が、心地よかった。


 やがて、体育館に、アナウンスが、響き渡る。


 決勝戦の、開始時刻が、告げられたのだ。


 私たちは、決勝の、アナウンスを、それぞれの、想いを、胸に、待つことにした。


 私の、本当の、戦いは、まだ、終わらない。


 この、手に入れた、温かい、光を、守るためにも、私は、勝たなければ、ならない。


 私は、静かに、そして、強く、ラケットを、握りしめた。

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