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異端の白球使い  作者: R.D
過去の記憶
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過去への栞(7)

 私の、意識が、そこで、完全に、途切れた後。


 世界は、私の、知らないところで、目まぐるしく、動き出したらしかった。


 次に、私が、目を、覚ました時、私は、病院の、白い、ベッドの、上にいた。


 腕には、点滴の、針が、刺さっている。


 体の、あちこちが、鈍く、痛む。


 でも、不思議と、あの、家にいた時のような、息の詰まる、苦しさは、なかった。


 その後、何が、どうなったのか。


 DVの、後始末とか、親権とか、そういった、難しい、大人の、話は、幼い私には、よく、分からなかった。


 ただ、警察の、人や、児童相談所の、人、そして、おじいちゃん、おばあちゃんが、代わる代わる、私の、元へと、やってきて、色々な、ことを、話していったのを、覚えている。


 お父さんと、お母さんの、顔は、二度と、見ることは、なかった。


 そして、私は、おじいちゃん、おばあちゃんに、引き取られ、あの、静かな、田舎町を、離れ、新しい、町へと、引っ越すことになった。


 あおには、何も、伝えられなかった。


 ううん、違う。


 私は、何も、伝えなかった。


 それが、彼女を、守るための、唯一の、方法だと、信じていたから。


 その頃には、もう、私の、心は、完全に、変わってしまっていた。


 昔の、よく笑い、よく泣いた、私は、もう、どこにも、いない。


 いるのは、ただ、感情を、捨て、全てを、拒絶するような、氷の、仮面を、被った、抜け殻だけ。


 おじいちゃん、おばあちゃんは、そんな、私の、様子を、心配しながらも、何も、聞かず、ただ、静かに、支えてくれた。


 彼らは、私に、新しい、家と、そして、卓球ができる、環境を、与えてくれた。


 それだけで、十分だった。


 私には、もう、それ以外、何も、必要なかったから。


 転校先の、学校でも、私の、その、氷のような、性格は、顕在だった。


 誰も、私に、話しかけない。私も、誰にも、話しかけない。


 成績は、常に、トップクラス。運動神経も、悪くはなかった。


 卓球部に、入部すると、私は、すぐに、頭角を、現した。


 コーチからは、「筋がいい」と、褒められた。


 でも、私は、誰とも、打ち解けようとは、しなかった。


 そして、あの日が、やってくる。


 練習後、ドアが、乱暴に、開けられた。


 そこに、立っていたのは、もう、二度と、会うことは、ない、と、思っていた、父の、姿だった。


 その、瞳は、憎悪と、狂気に、満ちていた。


 彼は、私の、胸ぐらを、掴み、そして、私の、手から、ラケットを、奪い取った。


 そして、その、ラケットを、膝で、いとも、簡単に、へし折ったのだ。


 乾いた、軽い、破壊音。


 それは、私の、心の、最後の、何かが、壊れる、音だった。


 父の、その、襲来を、きっかけに、私は、その、卓球クラブも、辞めた。


 もう、誰とも、関わりたくなかった。


 人間関係という、非合理的な、ノイズは、私の、卓球を、強くするためには、不要だと、判断したからだ。


 おじいちゃんは、そんな、私を、見て、何も、言わずに、新しい、家を、用意してくれた。


 私、一人だけの、家。


 そして、その、家には、私が、望んだ、全てが、あった。


 高性能な、卓球マシンと、そして、あの、店長さんが、取り寄せてくれた、赤い裏ソフト、黒いアンチラバー、ブレードはコントロール重視だが、攻撃性も高い、完成されたラケット。


 私は、その、日から、一人で、そのラケットと共に、ただひたすらに、機械と、練習を、続けた。


 私の、異端と、評される、スタイルは、こうして、確立した。




 小学生5年になる頃には、私の、周りには、もう、誰も、いなかった。


 それは、いじめとは、違う。


 周りの、みんなが、私を、遠巻きに、そして、どこか、恐れるように、避けているのだ。


 まるで、触れては、いけない、何かのように。


 それは、私にとって、孤高とでも、言うべき、最も、安全で、そして、心地の良い、状態だった。


 こうして、「静寂しおり」は、完成した。


 感情を、捨て、他者を、拒絶し、そして、卓球の、勝利だけを、求める、異端者。


 私の異端者としての新しい、物語は、ここから、始まるのだ。


 そう、思っていた。


 あの、第五中学の、卓球部の、扉を、開ける、その、日までは。

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