表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端の白球使い  作者: R.D
過去の記憶
356/674

過去への栞(3)

 私たちの、毎日は、輝いていた。


 クラスでは、相変わらず、二人ぼっちだったけれど、そんなことは、少しも、気にならなかった。


 休み時間には、二人で、絵を、描いたり、次の、テストの、話をしたり。


 放課後には、公民館の、卓球室で、日が、暮れるまで、ボールを、打ち合った。


 あおの、打つ、ボールは、いつも、真っ直ぐで、そして、とても、綺麗だった。


 彼女と、一緒に、いられる、時間。


 それだけが、私の、世界の、全てだった。





 私の家では何かが、静かに、そして、確実に壊れ始めていた。


 私の、お父さん。


 最初は、「都会から来た、すごい人」として、この小さな町でも、人気者だった。会社の人たちも、近所の人たちも、みんな彼に、優しかった。


 でも、その魔法は、長くは、続かなかった。


 数ヶ月もすれば、誰もが、彼のその、都会的な、物言いの、奥にある、態度の悪さに、気づき始める。


 会社での、成績も、芳しくなく、そして、次第に、誰も、彼に、話しかけなくなった。


 かつて、人気者だった、彼は、あっという間に、つま弾きものに、なっていった。


 そして、その、歪んだ、不満の、矛先は、家の中へと、向けられた。


 最初は、些細な、ことだった。


 お母さんに、対する、八つ当たり。


 食事が、まずい、と、皿を、壁に、投げつけたり。


 ささいな、ことで、怒鳴り声を、上げたり。


 家に、帰ると、いつも、お父さんの、機嫌の悪い、声がして、お母さんは、いつも、悲しそうな、顔をしていた。


 私は、学校では、その、ことを、おくびにも、出さなかった。


 あおの前では、いつも、笑っていた。


 彼女の、その、太陽みたいな、笑顔を、私の、家の、暗い、空気で、曇らせたくなかったから。


 でも、その「暴力」は、ついに、私にも、向けられるようになった。


 ビンが、投げつけられたり、水に、顔を、押し付けられて、窒息しそうになったり。


 そんな、地獄のような、日々。


 それでも、私は、学校では、普通の子を、演じていた。


 あおの前では、いつものように、静かに、微笑んで、いた。


 だから、彼女は、気づいていなかったはずだ。


 私のその、小さな体が、どれほどの痛みに、耐えていたのかを。


 彼女と、一緒に、卓球を、している、時間だけが、唯一、その、地獄から、逃げられる、場所だったのかもしれない。


 逃げるように、近くの卓球の会に、葵を、誘っていったりしてた


 今、思えば、あの時の、私の、その、必死な、誘いは、私自身の、SOSだったのかもしれない。


 そして、その、二人の、ささやかな「聖域」もまた、壊される日が、やってくる。


 静かに、そして、あまりにも、残酷な、形で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ