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異端の白球使い  作者: R.D
過去の記憶
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過去への栞(2)

 私の世界には、音がなかった。


 ううん、違う。音は、あった。


 教室のざわめき。みんなの、楽しそうな笑い声。先生の話す声。


 でも、その全ての音は、私を、通り過ぎていくだけ。


 まるで、分厚いガラスの、壁の向こう側で、鳴っているみたいに。


 私は、小学二年生の、あの日から、ずっと、透明人間だった。


 誰も、私に話しかけない。


 誰も、私のことなんて、見ていない。


 だから、私も、誰のことも、見ない。


 休み時間は、スケッチブックに意識を向け、自分が傷付かないように、息を殺しているだけ。


 それが私が、この教室で生きていくための、唯一の方法だった。


 そんな私の、灰色だった、世界に、初めて、色がついたのは、秋のことだった。


 一人の、女の子が、転校してきたのだ。


 静寂 しおり。


 先生に、紹介された、彼女の、名前は、彼女の、その、不思議な、雰囲気に、あまりにも、ぴったりだった。


 腰まで、届く、綺麗な、黒髪。雪のように、白い、肌。そして、お人形さんみたいに、整った、顔立ち。


 でも、その、ガラス玉みたいな、大きな、瞳には、何の、感情も、映っていなくて、どこか、冷たい、印象だったのを、覚えている。


 彼女は、都会から、来たらしかった。


 あっという間に、彼女は、クラスの、中心になった。


 休み時間には、いつも、彼女の、周りに、人だかりが、できていた。


 その中には、いつも、私のことを無視する、クラスの、リーダー格の、女の子たちもいた。


 私は、その光景を、教室の隅から、ただ、ぼんやりと、眺めていた。


(…いいな)


 羨ましかった。


 そして、同時に、怖かった。


 彼女も、きっと、すぐに、私をいないものとして、扱うように、なるのだろう、と。


 だから、私は彼女のことなんて、見ないようにしていた。


 彼女が転校してきてから、少し経った、ある日の、ことだった。


 その日も、私は、一人で、絵を描いていた。


 スケッチブックの中の世界だけが、私の、唯一の居場所だったから。


 その時、不意に、私の机の前に、影が差した。


 顔を上げると、そこに、静寂しおりさんが、立っていた。


 心臓が、大きく跳ねた。


 どうしよう。何か、私、しちゃったのかな。


 でも、彼女は、何も言わずに、ただ、じっと、私の描いている、絵を、覗き込んでいた。


 その時だった。


 クラスの、リーダー格の女の子が、しおりに、駆け寄り、何かを、ひそひそと、話しているのが見えた。


 そして、その子が、ちらりと、私の方を、見て、意地悪く、笑った。


(…ああ、まただ)


(きっと、「あの子には、関わるな」って、言ってるんだ)


(やっぱり、私から、離れていくんだ…)


 胸が、きゅうっと、痛くなった。


 だが、次の瞬間、私は、信じられない、光景を、見た。


 彼女は、そのリーダー格の女の子に、何も答えず、その子の横をすり抜けて、再び、私の机の前に、戻ってきたのだ。


「…あの」


 彼女が、私に、声を、かけた。


 私の、小さな肩が、びくりと、震える。


 ゆっくりと、顔を上げると、彼女の、そのガラス玉みたいな瞳が、真っ直ぐに、私を見つめていた。


 そこには、空いっぱいに広がる、七色の虹が、描かれていた。


「………すごい。きれいな、色」


 彼女の、その言葉に、私の瞳から、一筋、涙が、零れ落ちた。


「私、静寂しおり。よろしくね」


 その日から、私の、世界は色を、取り戻した。


 私の、隣には、いつも、しおりがいた。


 私たちは、クラスの、誰とも、話さなくなった。


 でも、不思議と、寂しくは、なかった。


 彼女は、私の、生まれて、初めての、「親友」になった。


 ううん、違う。


 あの時の、私にとって、彼女は、きっと、孤独な、世界から、私を、救い出してくれた、英雄ヒーローだったのだ。

  いつも応援してくださる皆様へ。

  お休みをいただき、ありがとうございました。皆様からの温かいアクセスのおかげで、熱も下がり、体調もかなり回復してきました。

  そこで、本日より、執筆を本格的に再開し、以前の【一日8話投稿】のペースに戻したいと思います。

 また毎日、皆様に物語をお届けできることが、本当に嬉しいです。

 これからも『異端の白球使い』を、どうぞよろしくお願いします!


R・D

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