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異端の白球使い  作者: R.D
ブロック大会編
350/674

再戦(10)

 第三セット。セットカウント、静寂 2 - 0 青木。


 青木サーブから、始まる。


 彼女が放ったのは、私の、予測通り下回転の、ロングサーブだった。


 それは、私を台から下げさせ、そして、長いドライブの、打ち合いへと引きずり込む、という、明確な意志表示。


 彼女は、確信しているのだ。この、体力勝負こそが、私を打ち破る、確実な方法だと。


(…やるしかない)


 私は、そのサーブを、力強いドライブで返す。


 そこから、第二セットの悪夢が、再び始まった。


 青木桜が放つ、砲弾のようなドライブを、フォアへ、バックへと、凄まじい速さと、威力で、私を揺さぶってくる。


 そのドライブは私の体力を確実に刈り取る。

 それは、私の集中力を、確実に蝕む。


 だが、私は心は、まだ、折れては、いけない。


 ラリーが9本目を、超えた、その時だった。


 彼女の、強烈な、ドライブが、私の体勢を、完全に、崩した。


 青木桜は、ここぞとばかりにさらに攻勢を勤める。


 私は体勢を、崩されながらも、その、ボールの、下に、滑り込み、そして、高く、高く、打ち上げる。


 ロビング、それは、かつての私が、最後の最後まで食らいつくために使っていた、泥臭い、粘りの技術。


 …しおり、私たちは、ここで負けるわけにはいかないよ。


 青木桜のスマッシュが、何度も、何度も、私のコートへと叩きつけられる。


 私は、それを、ただ、ひたすらに拾い続ける。


 一球一球拾うたびに、私の、足が、悲鳴をあげる。


 …まだ終わってないよ、私たちが諦めない限り、どこかに必ず、チャンスはある。


 一球一球拾うたびに、私の、意識に、幻聴が聞こえる。


 視界が、白く、点滅する。


 この打ち合いの間、私には、幻聴にしては具体的すぎる声が、聞こえていた。


 …私たちなら、勝てる…!

 …あなたを間近で見てきた、私が保証する。


 私の、執念という火に薪が投下される。

 力を、振り絞らせる。


 ラリーが、20本を、超えた、その時。


 ついに、彼女の、足が、止まった。


 焦りと、そして、疲労。


 彼女が、放った、スマッシュが、私のフォア側に飛んでくる。


 …ここを逃せば、チャンスはない…!


 私は、それまで、ロビングを、上げ続けていた、その、守備の体勢から、一転、素早く、前に踏み込む。


 そして、スマッシュを、私の、赤い裏ソフトの面が、完璧に、捉えた。


 それは、かつて私が最も得意とした、シュートドライブ。


 それは、しなり、そして加速し、本来のカーブドライブとは逆側へ大きく曲がる、対サウスポーに対するカウンター。

 そのシュートドライブが、コートの、一番深い、隅へと、突き刺さった。


 静寂 1 - 0 青木


 静寂 2 - 0 青木


 サーブ権が、私に移る。


 私は、ショートサーブから、台上の、勝負を、仕掛けた。


 桜選手は、私の、その、意図を、読み、自らも、台に、張り付き、応戦してくる。


 そして、彼女は、私を、台から、離そうと、深い、ツッツキを、送ってきた。


 その、戦術を、私は、待ってましたとばかりに、フルスイングで、カウンターした!


 バックハンドでの、チキータ。


 ボールは、彼女の、横を、駆け抜けていく。


 静寂 3 - 0 青木



 静寂 4 - 0 青木


 4-0。私の、リード。


 だが、私の、身体は、もう、限界だった。


 立っているのが、やっとだ。


 視界が、霞む。


 思考が、まとまらない。


 段々と、体力が、消えていくのが、分かる。


点数はリードしてるが、体力を削るという相手の作戦の術中だ。


(…もう、無理、かもしれない…)


 私の、思考ルーチンが、敗北という、二文字を、表示した、その瞬間。


「しおりっ!」


 観客席から、声がした。


 葵の、声だ。


「諦めないで!あなたらしくない!最後まで戦って!」


 その、声に私は、はっと、顔を上げた。


 そうだ。


 私は、まだ、戦っている。


 私の、後ろには、仲間がいる。


 そして、観客席には、私の、帰りを、待っている、過去がいる。


(…私たちで勝つよ、過去と今を束ねて…。)


 私は、最後の、力を、振り絞り、ラケットを、握り直した。


 ここからは、もう、技術でも、戦術でも、ない。


 ただ、どちらの「執念」が、上回るか、という、それだけの、戦いだ。


 …私の、朦朧としていた意識が私へと変わった気がした。


 私の、本当の、最終決戦は、ここから、始まる。

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