表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端の白球使い  作者: R.D
ブロック大会編
346/674

再戦(6)

静寂 9 - 5 青木


私のサーブ、リードはしているが、私は一度彼女の猛追を経験している。

出来ればこの二本のサーブで決めきりたい。


後、二点。


私は、ボールを、手の中で、一度弄ぶ。

そして、これまでの、どの構えとも違う、モーションを、取る。

それは、私の実験台、最も多く、見てきた、あの男の構え。

部長の、あの全身のバネを、使った、パワーサーブの、構え、それを、私の体でも最大限力を引き出せるように、アレンジしたサーブ。


私が、そこから放ったのは、トップスピンの、素早いサーブ。

青木選手は、その質の高いサーブに、しかし完璧に、対応し、力強い、ドライブで、返球してきた。

ここから、素早いボールの、やり取りが、始まる。


素早いドライブを、中心に攻める、青木。

それに対し、私は、コントロールに特化した、ドライブを、軸に、応戦する。

そして、その、高速の、ラリーの、中で、私は、一瞬だけ、力を、抜き、ストップでの緩急を、つけた。

桜選手の、リズムが、僅かに、狂う。

その、高い、コントロールと、緩急によって、ラリーの、ペースは、完全に、私の、ものとなり、最後は、私が、紙一重で、その打ち合いを制した。


 静寂 10 - 5 青木


セットポイント。

私の、二本目のサーブ。


…ここで決めきる…!


私は、もう一度、天高くに、ボールを上げ、大袈裟な、テイクバックから、サーブを、放つ。

 私が最も信頼するサーブモーション、多くの異なる回転を同じモーションから打ち分けることのできる、予測を裏切るサーブ。


私が、放ったのは、この試合で、初めて、見せる、強烈な、下横回転のサーブ。


下回転と、見ていた、青木は、それに、あわせようと、ドライブの、モーションに、入ろうとするが、ボールは、バウンドの、タイミングで、大きく、横に、逸れていった。

彼女の予測は、完全に、裏切られ、ラケットは、空を切る。


 静寂 11 - 5 青木


第一セット、終了。


…危なかった、もし下回転のサーブを放っていたら、強烈なカウンターを食らっていた。


そんな思いを他所に、私は、ネットの向こう側にいる青木選手に、一瞥もくれず、無言で、ベンチへと戻る。彼女もまた、無言で、自分の、ベンチへと、戻っていく。

私たちの、間に、言葉は、ない。

ただ、静かな、しかし、激しい、思考の、火花だけが、散っていた。


11-5。


スコアだけを見れば、圧勝。


ベンチに戻り、未来さんが、差し出してくれた、タオルで、汗を拭う。


ベンチに座り、身体を落ちつけようと、する。

その時、私は、身体の違和感に気づいた、いつもより体力の消耗が早い、バネのように酷使した足も、悲鳴を上げているように感じた。


そうだ。


あの、第一セットの、中盤。


青木選手が、仕掛けてきた、ドライブの応酬。


そして、私が、そこから主導権を奪い返すために、繰り出した、数々の奇策。


その、一球、一球に、私の、肉体と、そして、何よりも、精神が、すり減らされていたのだ。


私が、自分の、コンディションを、再分析していると、隣に座る、未来さんが、静かに、口を開いた。


「しおりさん、お見事でした。ですが、気になる点が、一つ。」


彼女の、声は、いつも通り、穏やかだ。だが、その、瞳には、鋭い、分析者の、光が、宿っている。


「あなたの、テイクバックから放つサーブ。あれに対し、青木選手の反応が、受ける度に、僅かに、早くなっています。」


「私の、観測では」と、未来さんは、続けた。


「彼女は、もうあなたの、大袈裟なモーションに、惑わされてはいません。むしろ、そのモーションの中から、いくつかの、可能性を割り出し、ある程度、ボールを、絞って、カウンター狙いをしている可能性が、高いです」


「今の、セットポイントは、あなたのサーブが初見だったから、取れました。しかし、同じ手が何度も、通用する、相手とは思えません。」


未来さんの、その分析。


それは、私が、漠然と感じていた、嫌な予感を、完璧に、言語化した、ものだった。


(…そうだ。彼女は、「慣れ」始めている。試合はもう二回目なのだから、当然といえば当然だ、しかし。)


私は、ラケットを、握り直した。


(これ以上彼女を、慣れさせる、訳には、いかない)


(この、試合、長引けば、長引くほど、私の、勝率は、低下していく。体力的にも、そして、戦術的にも)


ならば、答えは、一つ。


(…短期決戦だ。彼女が、私の、全ての技を駆使して、完全な、対応策を見つけ出す、その、前に、終わらせる)


インターバル終了を、告げるブザーが、鳴り響く。


私は、立ち上がり、未来さんを、見つめ返した。


「…ええ、未来さん。あなたの、分析通りです。このままでは、ジリ貧になる」


そして、私は、静かに、しかし、はっきりと、宣言した。


「短期決戦で仕留めます。彼女が、私の技に、慣れる、その前に。」


私の、その言葉に、未来さんは、静かに、そして、力強く、頷いた。


その、瞳には、「あなたの、その『解』を、信じます」という、絶対的な、信頼の、色が、宿っていた。


私は、その信頼を、背中に感じながら、再び、決戦の、舞台へと、足を踏み出した。

 異端の白球使いをお読みいただきありがとうございます。そして、皆様、お待たせいたしました。


 更新をお休みしている間も、作品を訪れ、待っていてくださった皆様、本当にありがとうございました。皆様の存在が、何よりの励みになりました。


 体調はまだ万全ではなく、以前のような怒涛の更新は難しいかもしれませんが、書ける時に、書ける分だけ、少しずつでも物語を進めていきたいと思っています。


 また、しおり達の物語を皆様と共有できることを、心から嬉しく思います。これからも、どうぞよろしくお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ