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異端の白球使い  作者: R.D
ブロック大会編
342/674

再戦(2)

 静寂 2 - 2 青木


 スコアは、2-2の、イーブン。


 しかし、試合の、流れは、今、完全に、私の方へと、傾き始めていた。


 私の、サーブによる、情報操作が、青木選手の、あの、完璧なはずだった、思考ルーチンに、僅かなエラーを、生じさせている。


 サーブ権が、彼女へと移る。


 彼女は、深く息を吸い込み、精神を、集中させようとしているのが、見て取れた。


(…ここからの、彼女の、サーブ。私が、最も、嫌うであろう、展開を、予測してくるはずだ。私が、ストップや、カットで、ラリーの、主導権を、握る、という、展開を)


 彼女が、放ったのは、質の高い、下回転ショートサーブ。


 私のフォアサイド、ネット際に、低くコントロールされている。


 私が、これを、ストップで、返球すれば、そこから、台の上での、神経を、すり減らすような、駆け引きが、始まる。


 そして、その、展開は、どちらに、転ぶか、分からない。


 そうなれば、試合の、流れは、再び、青木に、引き寄せられてしまう。


(…その、展開は、私が、望むものでは、ない)


 私は、そのサーブに対し、一歩、台に、深く、踏み込んだ。


 そして、ラケットを、裏ソフトの面に、固定したまま、手首を、しなやかに、そして、鋭く、使った。


 チキータでの、二球目攻撃!


 ボールは、強烈な、横回転を、帯び、彼女の、バックサイドへと、矢のように、突き刺さる。


 彼女は、私の、その、あまりにも、強気な、レシーブに、完全に、意表を、突かれていた。


 彼女の、ラケットに、ボールが、触れることは、なかった。


 静寂 3 - 2 青木


 青木選手の、二本目のサーブ。


 彼女の、瞳に、明確な、警戒の色が、浮かぶ。


(…チキータを、警戒している。だが、同時に、私の、ストップも、カットも、考えなければ、ならない…)


 彼女の、思考が、複雑な、迷路に、迷い込んでいる。


 彼女は、それでも、ショートサーブを、選択した。


 だが、その、サーブは、先ほどの、ものよりも、ほんの、わずかに、回転が、甘い。


 私は、その、サーブに対し、今度は、チキータを、選択しない。


 バックハンドで、安定した、ループドライブを、放ち、自ら、ドライブ戦へと、持ち込むように、見せかけた。


(…さあ、どうしますか、青木桜。あなたが、最も、得意とする土俵ですよ)


 案の定、彼女は、その、私の、誘いに、乗ってきた。


 力強く、ドライブを、かける彼女。


 そこから、数回の、壮絶なドライブの、応酬が、始まった。


「パァンッ!」「パァンッ!」


 彼女の、瞳に、自信の、色が、戻ってくる。これこそが、彼女の、世界。


 そして、ラリーが、7本目を、超えた、その時。


 彼女が、渾身の、力を込めて、ドライブを、打とうと、踏み込んできた、その、瞬間。


 私は、ドライブを、放つ直前、あまりにも自然に、ラケットを、アンチラバーに、持ち替えた。


 そして、振り抜いた。


 ナックルドライブ。


 その軌道は空気抵抗を受け、下回転のような振る舞いを見せる、誤魔化せるの一瞬だけ、しかし、一瞬もあれば十分だった。


 青木選手が、私の、ラケットが、アンチラバーに、持ち替わっているのに気づいたのと、彼女が、強烈な、トップスピンを、かけるために、ループドライブを、放とうとしていたのは、ほぼ、同時だった。


 彼女の、ラケットは、回転を、かけるために、ボールを、薄く、擦りあげようとしていたが、回転のない、ナックルボールは、その、ラケットの、上で、力なく、失速し、ネットに、引っ掛かった。


 静寂 4 - 2 青木


 ネットの向こう側で、青木桜が、初めて、その、完璧な、ポーカーフェイスを、信じられない、といった、驚愕の、表情に、歪ませていた。


 私の「実験」は、まだ、始まったばかりだった。

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