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異端の白球使い  作者: R.D
ブロック大会編
341/674

再戦

 主審の、試合開始を、促す、声が、響く。


 私と、青木桜選手は、ネットを、挟んで、対峙する。


 彼女の、その、静かな、瞳の、奥に、ほんの、わずかに、興味の、色が、浮かんでいるのを、私は、見逃さなかった。


「「よろしくお願いします」」


 静かな、体育館に、二人の、声だけが、響く。


 試合が、始まった。


 第一セット。


 サーバーは、青木。


 彼女が、放ったのは、県大会の、時も、私を、苦しめた、上質な、サイドスピンのかかった、ショートサーブだった。私の、フォアサイド、ネット際に、低く、そして、鋭く、滑り込んでくる。


 普通の、選手なら、これを、持ち上げるだけで、精一杯だろう。


 だが、私は違う。


 私は、その、サーブに対し、ラケットを、瞬時に、黒いアンチラバーの面に、持ち替えた。


 そして、ボールの、バウンドの、頂点を、捉え、その、全ての、回転を、殺し、そして、ネット際に、ぽとりと、落とす。


 デッドストップ。


 あなたの「王道」の、始まりを、私は、私の「異端」で、拒絶する。


 桜選手は、その、私の、あまりにも、無礼な、返球に、しかし、動じない。


 彼女は、美しい、フォームで、前に、踏み込み、その、死んだ、ボールを、ツッツキで、深く、返球してきた。


 そこから、台の上での、短い、ラリーの、応酬が、始まる。


 私の、マルチプル・ストップ戦術が、展開される。


 私が、ナックルで、止めれば、彼女は、それを、拾い上げる。


 私が、横回転を、かければ、彼女は、その、回転を、読み切る。


 ラリーが、5本、続いた、その時だった。


 私の、ストップが、ほんの、わずかに、甘く、浮き上がった。


 その、一瞬の、隙を、青木選手が、見逃すはずもなかった。


 彼女の、フォアハンドが、閃光のように、走り、強烈な、ドライブが、私の、コートを、撃ち抜いた。


 静寂 0 - 1 青木


 青木選手の、二本目のサーブ。


 今度は、速い、ロングサーブ。


 私は、それを、台から、一歩、下がり、カットで、応戦する。


 黒いアンチで、ナックルを、送り、赤い裏ソフトで、下回転を、かける。


 その、変幻自在の、守備の、壁。


 だが、青木選手は、その変化に、惑わされない。


 彼女は、私の、ラバーの、面を、そして、ボールの、軌道を、完璧に、見極め、その、一球、一球に、最適な、ドライブを、叩き込んできた。


 ナックルには、安定した、ループドライブを。


 下回転には、さらに、強力な、回転をかけた、カウンタードライブを。


 彼女は、私の、変化を、掻い潜りながら、必死に、食らいついてくる。


 長い、長い、ラリーの末、私の、カットが、僅かに、オーバーし、ポイントは、彼女に、入った。


 静寂 0 - 2 青木


(…やはり、強い。彼女は、私の変化に既に対応し、そして、その、上を、いこうとしている)


 私の、思考ルーチンが、警鐘を鳴らす。


 このままでは、いけない。県大会の、二の舞になる。


 この、膠着した、状況を、打破するための、次なる、一手を、打たなければ。


 サーブ権が、私に移る。


 私は、静かに、そして、深く、息を、吸い込んだ。


 そして、私の、瞳に、あの、氷のように、冷たい光が、宿った。


 私は、ボールを、手の中で、一度、弄ぶ。


 そして、相手に、そして、観客に、これ見よがしに、大袈裟な、テイクバックのモーションに入った。体を、大きく、捻り、ラケットを、高く、振りかぶる。


 それは、これから、放たれる、ボールに、どれほどの、回転が、込められているのか、と、相手に、想像させるための、視覚的な、情報操作。


 桜選手の、その、静かな、瞳が、私の、その、動きを、鋭く、捉えている。


 そして、私は、その、彼女の予測の、さらに、上を、行く。


 インパクトの、瞬間。


 私は、ラケットを、黒いアンチラバーの面に、合わせる。


 そして、ボールを「切る」でも、「弾く」でもない。


 ただ、その、全ての、回転と、威力を、無に還し、そして、相手の、思考の、前提を、嘲笑うかのように、超低空の、ナックルロングサーブを、彼女の、バックサイド深くへと、突き刺した!


 これこそが、私の、数ある、「手札」の中でも、とっておきの、切り札。


「…っ!」


 桜選手は、その、あまりにも、異質な、弾道と、速さに、しかし、完璧に、反応した。さすがだ。


 彼女は、その、死んだ、ボールを、ドライブで、強打することは、せず、安定した、ブロックで、私の、コートへと、返球してきた。


 だが、その、返球は、回転のない、ボールを、処理した、が故に、ほんの、わずかに、山なりに、そして、甘く、浮き上がった。


 私は、その、三球目を、見逃さない。


 一歩、深く、踏み込み、赤い裏ソフトの面で、その、甘い、ボールを、相手コートの、オープンスペースへと、冷静に、そして、無慈悲に、叩き込んだ。


 静寂 1 - 2 青木


 私の、二本目のサーブ。


 私は、再び、全く、同じ、大袈裟な、テイクバックの、モーションに入る。


 青木選手の思考に、一瞬の迷いが、生まれる。また、ナックルロングか?いや、今度こそ、下回転の、ショートか…?

 放ったのは、モーションとは、全く、逆の、下回転を、かけた、ショートサーブ!


 彼女の、レシーブは、ナックルかバックスピンか、予測できずに、完全に中途半端な、ものとなった。

 そのボールは、甘く、そして高く、私のコートへと、返ってきた。


 絶好の、チャンスボール。


 私は、そのボールに、飛びつき、そして、再び、三球目攻撃で、コートを、撃ち抜いた。


 静寂 2 - 2 青木


 スコアは、2-2の、イーブン。


 しかし、試合の、流れは、今、完全に、私の方へと、傾き始めていた。


 ネットの向こう側で、青木桜が、初めて、その、完璧な、ポーカーフェイスを、僅かに、歪ませたのを、私は、見逃さなかった。


 私の、本当の「戦い」は、ここから、始まるのだ。



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