決意
「今度こそ、完勝してあげますよ」
私の、その、一点の、感情も、ない、しかし、絶対的な、勝利への、意志だけが、込められた、言葉。
私の言葉は、冷たい、鋭利な言葉。
それを、聞いた、仲間たちは、それぞれの、表情で、私の、その覚悟を、受け止めていた。
私たちは、全員で、トーナメント表が、張り出されている、壁から離れ私たちの、控え場所である、観客席の、一角へと、戻った。
そこからの、時間は、静かだった。
だが、それは、これまでの、休憩時間とは、全く、質の違う、静寂。
誰もが、口には、出さない。だが、その、胸の内で、これから、始まる、二つの、大きな、戦いに、向けて、精神を、研ぎ澄ませているのが、肌で、感じられた。
部長は、黙々と、ストレッチを、繰り返している。その、表情は、いつになく、真剣だ。
あかねさんは、その、隣で、新しい、ドリンクを、用意したり、タオルを、畳んだり、マネージャーとしての、仕事に、集中することで、自らの、緊張を、紛らわしているようだった。
葵は、私の、隣に、座り、ただ、じっと、私の、顔を、見つめている。その、瞳には、強い、祈りのような、色が、宿っていた。
私は、ラケットケースから、ラケットを、取り出し、ラバーの、表面を、丁寧に、磨き始める。
思考を、クリアにするための、儀式。
その、静寂を、破ったのは、私の、向かいに、座り、タブレット端末を、操作していた、未来さんの、静かな、声だった。
「…皆さん」
彼女の、その、声に、私たちは、一斉に、顔を、上げた。
未来さんは、その、深淵のような、瞳で、私と、部長を、交互に見つめ、そして、事実だけを、淡々と、告げた。
「この、今から、始まる、第四回戦。これを、突破すれば、次が、決勝となります」
彼女は、そこで、一度言葉を、切り、そして、続けた。
「…つまり、あと、二回、勝てば…。この、ブロック大会を、突破し、いよいよ、全国大会、です。」
全国大会。
その、言葉の、響きに、その場の、空気が、ぐっと、密度を、増した。
「ぜ、全国…!」
あかねさんが、息をのむ。その、瞳が、信じられない、といった、輝きと、そして、極度の、緊張で、潤んでいる。
「しおりなら、部長さんなら、絶対、行ける…!」
葵が、祈るように、拳を、強く、握りしめた。
そして、部長は。
彼は、それまで、続けていた、ストレッチを、ぴたりと、止め、そして、ニヤリと、あの、不敵な、笑みを、浮かべた。
「…はっ!上等じゃねえか!面白くなってきたな!」
その、声には、プレッシャーなど、微塵も、感じさせない、絶対的な、自信が、満ちあふれていた。
私は、そんな、仲間たちの、様子を、冷静に、観測していた。
そして、ゆっくりと、顔を、上げ、未来さんの、瞳を、真っ直ぐに、見つめ返した。
私の、口から、こぼれたのは、たった、一言。
しかし、その、一言には、私の、今の、全ての、意志が、込められていた。
「…全員なぎ倒すだけです…、…そして、行きましょう。全国へ。」
その、言葉を、合図に、私たちの、本当の、戦いが、始まろうとしていた。