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異端の白球使い  作者: R.D
ブロック大会編
336/674

三回戦?

「…三回戦の、組み合わせを、確認しに行きます。」

  私がそう言って、立ち上がろうとした、その時だった。


「あの、しおり…」 葵がどこか、不思議そうな顔で、私に話しかけてきた。


「忘れてるかも、しれないけど…。しおり達は、県大会の、優勝者だから、シードされてるでしょ?だから、しおりが言ってる、三回戦って、トーナメント全体で、見たら、もう、四回戦だよ?」


(…シード。第一回戦は、不戦勝。私にとっての、一回戦は、大会の二回戦。二回戦は、大会の三回戦。つまり、次の、試合は…四回戦。…彼女の、言う通りだ。私の、認識に、エラーが、あった)


「そう言えばそうだな!忘れてたぜ。」

 部長もあまり違和感なく三回戦だと思っていたようだ。


 私が、自分の計算ミスを修正していると、隣で、あかねさんが、ぽん、と、手を叩いた。彼女も抜けていたらしい。

  「そういえば、しおりちゃんも、部長先輩も、県大会で、優勝したから、シード選手なんだ!すごい、すごい!だから、試合数が、少ないんだね!」


 その、あかねさんの、感心したような、言葉に、葵が、どこか、誇らしげに頷いている。 まるで、自分のことのように、私の、ことを、自慢しているかのようだ。 その、姿に私の、胸の奥が、またほんの少しだけ、温かい、ノイズで、満たされていく。


 私たちは、全員で、トーナメント表が、張り出されている、壁へと、向かった。 そして、私の、名前の、その、次の、対戦相手の、欄に、記されている、学校名と、名前を、確認する。


 未来さんが、静かに、そして、鋭く、その、名前を、読み上げた。


「…しおりさん。四回戦の、お相手…。常勝学園の、青木選手です」


 その、言葉に、その場にいた、全員の、空気が、一瞬で、引き締まった。


 常勝学園。青木選手。


 県大会の、決勝で、私が、死闘を、演じた、絶対的な王者。


 私の、隣で、あかねさんが、ごくりと、喉を鳴らすのが、分かった。


 私は、その、学校名を、ただ、じっと、見つめる。


 そして、静かに、呟いた。


「……やはり、上がってきましたか。」


 その、私の声には、恐怖も、動揺もない。


 ただ、その、再戦が、必然であることを、確認するような、冷たい、響きだけが、あった。


「…部長先輩の、相手は…?」


 あかねさんが、緊張した、面持ちで、今度は、男子の、トーナメント表を、目で、追う。


 その、彼女の、視線を、追いかけるように、葵が、隣から、ひょいと、顔を、出した。


「あ、部長さんの、相手は…朝久学園の、矢口っていう、選手、ですね」


 矢口…。


 私の、データベースには、ない、名前だ。


「葵。知っていますか、その選手を」


 私が、そう、尋ねると、葵は、首を、横に、振った。


「いや、知らない名前かなー、学校名は、うちの県の強豪校の名前だったと思うけど…。いずれにしても、ここまで勝ち上がってきている、ということは、実力は確かだろうね!」


 その言葉に、それまで黙って、トーナメント表を睨みつけていた部長が、ニヤリと、不敵な笑みを浮かべた。


「知らねえ相手か。上等だ。」


 彼は、拳を握り、楽しそうに話す。


「当たってからの、お楽しみだな。」


 その、彼の、どこまでも、前向きで、そして、力強い、言葉。


 それに対し、あかねさんが、「もう、部長先輩は!」と、呆れながらも、どこか、嬉しそうに、笑っている。


 その、いつも通りの、光景。


 私は、再び、自分の、対戦相手の、名前へと、視線を、戻した。


 青木桜。


 県大会の、あの、死闘が、脳裏に、蘇る。


 あの、絶対的な、「フロー」。


 そして、その、裏で、動いていた、見えない、悪意。


 私の、唇の、端が、ほんの、わずかに、吊り上がった。


 それは、誰にも、気づかれない、氷のように、冷たい、笑み。


「…しおりちゃん…?」


 あかねさんが、私の、その、変化に、気づき、心配そうに、声をかける。


 私は、彼女に、向き直り、そして、静かに、しかし、はっきりと、宣言した。


「ええ、問題ありません。県大会では、少し、遊ばれすぎましたから」


「今度こそ、完勝してあげますよ」


 その、言葉には、一点の、感情も、ない。


 ただ、勝利という、結果だけを、求める、冷たく、鋭利な意志。


 私の、本当の「実験」は、ここから、始まるのだ。

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