表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端の白球使い  作者: R.D
ブロック大会編
334/674

死闘(2)

 部長 15 - 15 空知


 体育館の、全ての、音が、消え去ったかのようだ。


 聞こえるのは、俺と、ネットの向こう側に立つ、空知の、荒い、呼吸音と、そして、俺自身の、早鐘を打つ、心臓の音だけ。


 15-15。


 あと、2点。


 この、2点を、先に、取った方が、この、ブロック大会の、頂点に、立つ。


だが、その2点があまりにも遠い。


(…ちくしょう。また、デュースかよ…)


 俺は、汗で、滑る、ラケットを、握り直し、内心で、悪態をつく。


 観客席にいる、しおりの、あの、呆れ顔が、目に、浮かぶようだ。


「また、デュース合戦ですか?非効率的ですね」と、そう、言われている、気がする。


 だが、仕方ねえだろ。


 目の前の、空知という、男は、それほどまでに、強い。


 俺の、渾身の、パワーショットを、あいつは、涼しい顔で、的確な、カウンターで、切り返してくる。


 かと思えば、俺が、繰り出す、YGサーブや、ナックルサーブにも、驚異的な、適応力で、食らいついてくる。


 隙が、ない。


 俺のサーブ。


 俺は、渾身の、力を込めて、パワーサーブを、叩き込んだ。


 長い、長い、ラリーの末、俺は、なんとか、その、ポイントを、もぎ取った。


 猛 16 - 15 空知


 空知のサーブ。


 もう、何度目か、分からない、デュース


(…体力勝負なら負ける気はしねえが、俺のパワーとループドライブでの緩急の取り入れに、空知が慣れてきていやがる…このままでは、いずれ負けちまう。)


 俺は、観客席の、仲間たちへと、一瞬だけ、視線を、送った。


 ベンチで祈るように、俺を見つめる、あかね。


 静かに、しかし、鋭く、戦況を、分析している、未来。


 そして、瞳の奥で、静かに、この戦いの、行方を、見つめている、しおり。


(…そうだ。あいつなら、この、膠着した、状況を、どう、切り抜ける…?)


 俺の脳裏に、あの、しおりとの、練習風景が、蘇る。


 彼女の、あの、常識外れの、卓球。


 しおりは非力だ、身長や体力、様々なハンデを背負ってる、それでも、リズムを変え、緩急をつけ、相手の予測を、裏切り続け、食い破る。



 しおりなら、この状況、対処するなら予測を裏切るんじゃないか?


(俺の変化技は精度低い、一度見せたら対処されちまうだろう、だから一度きりの、切り札。今、ここで、使うしか、ねえ…!)


 俺は、サーブを、打った。


 それは、いつもの、パワーサーブ。


 空知は、それを、予測通り、力強い、ドライブで、返球してくる。


 ここから、パワー vs パワーの、壮絶な、打ち合いが、始まった。


「パァンッ!」「バァンッ!!」


 互いの、全てを、叩きつけるような、ラリー。


 そして、ラリーが、7本目を、超えた、その時。


 空知の、ドライブが、俺の、フォアサイドへと、深く、突き刺さる。


(――今だ!)


 俺は、それに対し、ドライブで、応戦しない。


 それまで、大きく、振っていた、ラケットの、動きを、一瞬で、殺す。


 そして、その全身の力を抜き、コンパクトな、モーションで、ボールの、下を、鋭く、切った!


 しおりの、デッドストップを、真似た、強烈な、下回転の、ストップ!


 しおりの、あの、魔術のような、デッドストップより、精度はあまり、よくなかったが、この、凄まじい、スピードで、展開されていた、パワーの打ち合いに、緩急を、つけるには、十分だった。


「なっ…!?」


 ネットの向こう側で、空知が、驚愕の声を上げる。


 彼の、体は、俺の、次の、パワーショットを、予測し、完全に、打ち合いの、体勢に、入っていた。


 その、彼の、予測を、俺の、この、あまりにも「らしくない」、一球が、完全に、裏切ったのだ。


 彼は、慌てて、前に、駆け込む。


 そして、その、低い、ボールを、なんとか、ラケットに、当てて、拾い上げた。


 とっさの、ロビングで、時間稼ぎをするが、その、返球は、甘い、返しになってしまう。


 俺の、目の前に、ふわりと、上がった、白い、ボール。


 それは、まるで、スローモーションのように、見えた。


(…もらった!)


 俺は、その、絶好の、チャンスボールを、見逃さない。


 一歩深く踏み込み、そして、全身のバネを、使って、ありったけの、力を、込めて、その、白球を、叩きつけた!


 ボールは、雷鳴のような、音を立てて、相手コートに、突き刺さった。


 部長 17 - 15 空知


 その、一点が、この、長かった、死闘の、終わりを、告げた。



 俺の、勝利。


 俺たちの、勝利だ。


 俺は、天に、向かって、拳を、突き上げた。


 しおり。未来。あかね。


 そして、後藤。


 あいつら、全員の、顔が、脳裏に、浮かんでいた。


 この、勝利は、俺たち、全員で、掴み取ったものなんだ。


 俺は、そう、心の中で、叫んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ