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異端の白球使い  作者: R.D
ブロック大会編
333/674

死闘

 思考ルーチンは、まだその感情のデータを、処理しきれずにいた。


 だが、トーナメントは、待ってくれない。


 私は、心の奥底に生まれた、その小さな、しかし、確かな「変化」に、一旦、蓋をする。


 そして、思考を完全に次の、フェーズへと、切り替えた。


「部長たちの、試合を、見に行きます」


「わかったよ!しおりっ!」


 私の隣には、葵が、当たり前のように、立っている。彼女も、ついてくる、という、ことらしい。


 私たちは、部長とあかねさんがいるはずのコートへと、向かった。


 観客席には、既に多くの人だかりが、できていた。


 その、異様な、熱気と、緊張感に、私は、すぐに、状況を、理解する。


「…すごいことになってますよ…」


 未来さんが私たちの、存在に気づき、駆け寄ってきた。


 彼女が、指差す、スコアボード。


 そこに、表示されていた、数字に、私は、息をのんだ。


 セットカウント 部長 2 - 2 空知


 部長 12 - 12 空知


(…フルセット。そして、12-12の、デュース…)


 私が、自身に生まれた感情と向き合っている間に、部長もまた、これほどの、死闘を、繰り広げていたとは。


 コートの中では、部長と、北園中学の、空知選手が、互いに、一歩も、譲らない、凄まじい、打ち合いを、続けている。


 サーバーは、部長。


 ここから、一点、一点が、勝敗を、左右する、極限の、場面。


 彼は、YGサーブの、モーションから、変化をつけた、ナックルサーブを、放つ。


 だが、空知選手は、それに、完璧に、対応し、鋭い、チキータで、反撃する。


 部長が、それを、パワーで、ねじ伏せる。


 空知選手が、そのパワーを、カウンターで、いなす。


 一進一退。


 まさに、死闘。


 その、あまりにも、ハイレベルな、攻防を、隣で、見ていた、葵が、ぽつりと、呟いた。


「…すごい。部長さん、あの、空知先輩と、あんなに、互角に、戦えてるなんて…。」


 その声には、純粋な驚嘆と、そして、尊敬の色が、浮かんでいた。


 私は、彼女の、その、意外な、言葉に、視線を、向けた。


「正直、ここまで、やれるなんて、思ってなかった。」


 葵は、続ける。


「私、何度か空知先輩に挑んだことがあるんだ。…でも毎回、全く、歯が立たなかった。私の、ドライブも、全部、あのカーブドライブで、いなされて…手も足も、出なかったから」


 その、告白に、私は、驚く。


 葵の、あの、感情の、乗った、超攻撃的な、卓球。それを、完全に、封じ込めるほどの、実力が、あの空知選手には、ある、というのか。


 ラリーが、続く。


 13-13。14-14。15-15。


 お互いに、マッチポイントを、握っては、奪い返される、息の、詰まる、展開。


 葵は、その、光景を、固唾をのんで、見守りながら、静かに、しかし、はっきりと、言った。


「…でも、今の、部長さんなら、あるいは…」


 彼女の、瞳には、確かな、光が、宿っていた。


「あの人、私が知っている、ただの、パワーだけの、選手じゃない。きっとしおりの営業で、何かを掴んだんだ。あの、緩急。そして、戦術の、引き出し。…今の、部長さんなら、あの、空知先輩の、牙城を、崩せるかもしれない」


 その、葵の、言葉。


 それは、彼女が、もはやしおりだけの世界に、生きているのではない、という、証だった。


 彼女は、ちゃんと、見ている。


 部長の、戦いを。


 そして、この、チームの、戦いを。


 一人の、仲間として。


 私は、コートの中で、死力を、尽くす、部長の、その、大きな、背中を、見つめた。


 そして、その、隣で、同じように、真っ直ぐな、瞳で、彼を、見つめる、葵の、横顔を。


 私の「静寂な世界」に、また一つ、新しい、そして、温かい、変数が、加わった、瞬間だった。



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