部長VSサウスポー(2)
もう、この試合、俺が、負ける、気は、しなかった。
俺の、サーブ。
俺は、再び、葵の、情報通り、空知の、バックサイドを、徹底的に、攻める。
サーブで、バックを、突き、そして、返ってきた、ボールを、さらに、ドライブで、バックへと、叩き込む!
空知は、その、俺の、執拗なまでの、バック攻めに、完全に、防戦一方だ。
そして、最後は、彼の、ブロックが、甘くなったところを、俺が、フォアハンドで、叩き込み、ポイントを、連取する。
猛 5 - 1 空知
(よしっ!このまま、一気に、押し切る!)
俺は、そう、確信した。
だが、空知は、強豪、北園中学の、三年生。
このまま、黙って、やられるような、タマじゃ、なかった。
サーブ権が、空知に移る。
彼は、ここに来て、初めて、戦術を、大きく、変えてきた。
彼が、放ったのは、俺の、フォアサイドを、大きく、横に、切る、ワイドな、サーブ。
俺に、バック側を、攻めさせない、という、明確な、意志。
俺は、そのサーブに、飛びつき、ドライブで、応戦する。
ラリーが、始まる。
その、瞬間だった。
空知が、待ってましたとばかりに、その、体勢から、あの、フォアハンドでの、カーブドライブを、放ってきたのだ!
「なっ…!?」
ボールは、普通の、ドライブとは、全く、違う、軌道を描く。
俺の、目の前で、ボールが、まるで、生きているかのように、ぐにゅり、と、外側へと、逃げていく。
俺の、ラケットは、その、予測不能な、変化に、対応できず、空を、切った。
猛 5 - 2 空知
(…これか、葵の、言っていた、いやらしい、カーブドライブってのは…!)
その、厄介さは、一度、受ければ、分かる。
頭では、分かっていても、体が、反応できない。
俺の、得意な、パワープレーが、あの、独特の、軌道の、前に、完全に、無力化される。
空知は、その、一点を、きっかけに、息を、吹き返した。
彼は、徹底して、俺を、フォアサイドに、集め、そして、得意の、カーブドライブで、ポイントを、重ねていく。
猛 5 - 4 空知
まずい。
完全に、相手の、ペースだ。
葵の、情報は、もはや、通用しない。
しおりから、学んだ、「緩急」も、この、速い、ラリーの中では、使う、隙がない。
(…どうする。このままじゃ、このセット、持って行かれるぞ…!)
俺が、焦り始めた、その時。
ベンチの、あかねの、声が、聞こえた。
「部長先輩!自分の、卓球を、信じて!」
(…俺の、卓球…)
そうだ。
俺の、卓球は、なんだ。
しおりのような、頭脳か?葵のような、分析力か?
違う。
俺の、武器は、ただ、一つ。
誰にも、負けない、この、パワーだ!
俺は、吹っ切れた。
次の、ラリー。
空知が、またしても、カーブドライブを、放ってくる。
俺は、もう、その、変化に、惑わされない。
コースを、読むんじゃない。
変化する、その、さらに、根元を、その、上から、パワーで、叩き潰す!
俺は、一歩、前に、踏み込み、そして、これまでの、どの、一球よりも、速く、そして、重い、カウンタードライブを、叩き込んだ!
ボールは、曲がる、暇すら、与えられず、一直線に、相手コートへと、突き刺さった。
「なっ…!?」
今度は、空知が、驚愕する番だった。
そうだ。
小手先の、戦術じゃねえ。
俺は、俺の、王道で、お前の、その、ひねくれた、ボールを、ねじ伏せる!
そこからは、再び、俺の、ペースだった。
俺は、もう、迷わない。
ただ、ひたすらに、パワーで、押す。
俺の、その、圧倒的な、パワーの、前に、空知の、カーブドライブも、次第に、その、精度を、失っていった。
そして、最後は、俺の、渾身の、スマッシュが、彼の、コートに、突き刺さり、第一セットは、終わった。
俺は、拳を、強く、握りしめた。
苦しい、戦いだった。
だが、その分、勝利の、味は、格別だった。