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異端の白球使い  作者: R.D
ブロック大会編
329/674

想定外(2)

 二回戦が、相手の棄権という、あまりにも後味の悪い形で、終わった後。


 私と葵と未来さんは、私たちの、控え場所である、観客席の、一角へと、戻ってきていた。


 私が、ベンチに、腰を下ろすと、彼女は、まるで、溜まっていた、何かが、爆発したかのように、興奮気味に話す。


「信じられない!県大会チャンピオンと、戦える、なんて、滅多に、ない、チャンスなのに!」


 彼女の、声には、私への、気遣い、というよりも、むしろ、純粋な、怒りが込められている。


「一回、完封(ベーグル)(11-0)で、負けたぐらいで、なによ!情けない! 胸を借りる、気持ちで、最後まで戦えば、いいじゃない!」


 その、あまりにも真っ直ぐで、そして、好戦的な、言葉。


 未来さんが、その彼女の興奮を、鎮めるように、静かに、口を、開いた。


「…日向さん。ですが、彼女の降参という選択は、相応の代償を伴います。」


「え…?代償?」


 葵が、不思議そうに、未来さんを見る。


「はい」と、未来さんは、頷いた。


「公式戦での、理由なき棄権は、スポーツマンシップに反する行為です。おそらく、彼女には後日、運営から聴取があるでしょう。そして、場合によっては、今後の大会への出場停止、といったペナルティが、科される、可能性も、あります」


 未来さんの、その、冷静で、そして、詳細な、説明。


 それを、聞いた葵は、しかし、同情するどころか、ふん、と鼻を鳴らした。


「…出場停止?ふん。自業自得よ。」


 彼女は、そう、言い放つと、私の、方へと、向き直った。


「しおりとの、試合を、途中で、投げ出すなんて、選手失格よ。それくらいの、覚悟も、ないなら、最初から、コートに、立つべきじゃなかったのよ」


 その、言葉は、私を、絶対的な、存在として、崇め、そして、私を、ないがしろにした、相手を、断罪する、彼女なりの、歪んだ、愛情表現。


 だが、その、彼女の、瞳の、奥には、怒りとは、また、別の、色が、浮かんでいた。


 それは、深い、深い、心配の色。



(…昔の、しおりは、ただ、純粋に、卓球を、楽しんで、いた。勝ち負けなんて、関係なく、ただ、ボールを、追いかける、その、姿が、太陽のように、輝いていた。なのに、今の、あなたの、卓球は…。相手の、心を、壊してまで、勝利を、求めなければ、ならないほど、あなたを、追い詰めているものは、何…?このままでは、あなたが、どんどん、冷たい、場所に、行ってしまう…)





 私は、そんな、二人の、やり取りを、ただ、黙って、聞いていた。



 その、はずだった。


 なのに。


 なぜだろう。


 私のために、本気で、怒ってくれる、葵。


 私の心を、気遣ってくれる、未来。


 その二人の存在が、私の「静寂な世界」を、温かいもので、満たせば、満たすほど、私の心の中心には、奇妙な空白が、広がっていく。


(…なぜ、あなたたちは、私の、ことを、そんな風に、話すのですか)


(私は、ここにいるのに)


(まるで、私が、ここに、いないみたいに)


 そうだ。


 私は、この会話の、中心に、いるはずなのに、完全に、部外者だった。


 彼女たちは、私の、知らない、私の、ことを、話している。


「魔女」としての、私。


「可哀想な、過去を持つ」、私。


「守るべき、対象」としての、私。


 そのどれもが、私であって、私ではない。


 その、どうしようもない、認識の、ズレが、私の、心に、ほんの、わずかに、寂しい、という、解析不能な、感情を、生み出していた。


 それは、誰にも、気づかれない、私だけの、小さな、小さな、システムエラーだった。



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