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異端の白球使い  作者: R.D
ブロック大会編
327/674

VSサウスポー(2)

 


 静寂 4 - 0 田中


 コートサイドで、未来さんが、感嘆の息を漏らしたのが、見えた。


 そうだ。


 これこそが、私の、卓球。


 相手の、思考を読み、その前提を破壊し、そして相手が、思考そのものを放棄するまで、追い詰める。


 私の「実験」は、今完璧な、データを収集し続けていた。


 サーブ権が、私に移る。


 私は、ネットの向こう側で、明らかに、動揺しそして、自信を失いかけている、田中選手を、冷静に、観察する。


(…田中 恵選手。サウスポー。フォアのカーブドライブは、質が高いらしい。だが、戦術の引き出しが、あまりにも、少なすぎる。バックハンドの、処理能力にも、課題が見られる)


(ここまで、勝ち抜いて、ブロック大会に、出場しているにしては…正直、レベルが、低い。彼女が、ここまで、来れたのは、サウスポーである、というアドバンテージを活かし、運良く勝ち上がってこれた、もしくは、相手選手がドライブの打ち合いにのってきたという、側面が大きいのだろう)


 …ブロック大会まで漕ぎ着けるなら後者のほうが妥当だろうか。

 私の思考ルーチンが、冷徹な評価を、下す。


(しかし…)


 私は、ラケットを、握り直した。


(…油断は、大敵。私の目的は勝利。その目的を達成するためには、相手のレベルの高低は、関係ない。ただ、私の、最適解を、試合終了まで、完璧に、実行し続けるだけ)


 私の、一本目のサーブ。


 私は再び、あの大きな、大袈裟な、テイクバックの、モーションに入る。


 田中選手の、体が、またしても、こわばるのが、分かった。


 彼女の、思考は、今、「ロングか、ショートか」「スピンか、ナックルか」「フォアか、バックか」という、情報の迷路に、完全に迷い込んでいる。


 私は、その迷いの中に、さらに、新しい絶望を、送り込む。


 横下回転のロングサーブ。


 ボールは、白い閃光となって、バウンドと共に横へ軌道を変えバック深くへと、突き刺さった。


 彼女は、もう、そのボールに、反応することすら、できなかった。


 静寂 5 - 0 田中


 私の、二本目のサーブ。


 同じ、モーションから、今度は、赤い裏ソフトの面で、強烈な下回転をかける、ように偽装したナックルサーブを放つ。


 田中選手は、その死んだようなボールを、なんとかループドライブで、持ち上げてきた。


 だが、その無理に持ち上げた、山なりのボールは、私にとっては、絶好の、攻撃の的。


 私は、その返球を、冷静に、そして無慈悲に、コートのオープンスペースへと、叩き込んだ。


 静寂 6 - 0 田中


 サーブ権が、相手に移る。


 もはや、彼女にラリーへ持ち込ませる気など、なかった。


 彼女のショートサーブに対し、私は一歩前に、踏み込み、手首をしなやかに使った、チキータで、ボールを、捉える。


 二球目攻撃。


 私の、その攻撃的なレシーブの前に、田中選手は、なす術もなく、ポイントは、私に、入った。


 静寂 7 - 0 田中


 彼女は、今度は、ロングサーブを選択する。


 だが、それも、私の、予測の、範囲内。


 私は、その、ロングサーブに対し、アンチラバーで、鋭く、ストップをかける。


 ボールは、ネット際に、ぽとりと、落ちる。


 彼女が、慌てて前に駆け込み、拾い上げた、その、甘い、チャンスボールを、私は、見逃さない。


 静寂 8 - 0 田中


 もう、彼女の、瞳には、闘志の、光は、残っていなかった。


 ただ、諦めの、色が、浮かんでいる。


 だが、私は、一切、攻撃の手を、緩めない。


 これが、私の、冷徹さ。


 これが、私の、徹底さ。


 相手が、誰であろうと、どんな、状況であろうと、私は、私の、ロジックを、完璧に、遂行するだけだ。


 静寂 9 - 0 田中


 静寂 10 - 0 田中


 セットポイント。


 最後のサーブ、田中選手のサーブ。


 下回転の、ショートサーブ。


 私は、無慈悲にチキータでの二球目攻撃を決める


 静寂 11 - 0 田中


 第一セット終了。


 私は、ネットの向こう側で、呆然と立ち尽くす、田中選手に、一瞥もくれず、ベンチへと、歩き出した。



 この、勝利に、何の感情も、ない。


 ただ、一つの、プロセスが、終わっただけなのだから。

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