表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端の白球使い  作者: R.D
ブロック大会編
325/674

VSサウスポー

 静寂 2 - 0 田中


 コートの上では、私の静かな、そして、残酷なまでの「実験」が、まだ始まったばかりだった。


 サーブ権が相手の、田中選手へと移る。


 彼女は、深く息を吸い込み、その動揺をなんとか、鎮めようとしているのが、見て取れた。


(…最初の二本のサーブで、彼女の思考ルーチンには、「モーションと球種、そしてコースは、全く信用できない」というデータが、刷り込まれたはずだ。ならば、彼女が次に、選択するのは…、自らが主導権を握りやすい、最も、得意とする、パターンだろう)


 私のその予測通り、田中選手が放ったのは、彼女の、最大の武器である、カーブドライブへと繋げるための布石。


 私のバックサイドへ、鋭く食い込んでくる、横回転サーブ。


 私に、ループドライブで持ち上げさせ、そしてその返球を、得意の、フォアハンドで叩く、というサウスポーの、王道戦術だ。


(…あなたの、その、思考、完全に、読み切っています)


 私は、そのサーブに対し、ループドライブを、選択しない。


 ラケットを瞬時に、黒いアンチラバーの面に持ち替え、そして、台の上で、ボールのバウンドの、頂点を捉える。


 デッドストップ。


 私は、その得意な戦術の起点となるべき、回転を完全に殺し、そして、ボールを、ネット際に、ぽとりと、落とす。


「…っ!」


 田中選手は、自分の描いた、勝利への式が、最初の一行目で、消去されたことに、驚愕の表情を、浮かべている。


 彼女は、慌てて前に駆け込む。


 そして、その死んだボールを、なんとかフリックで、返球してきた。


 だが、その返球は、もはや威力もコースも甘い、ただの、チャンスボール。


 私は、そのボールを冷静に、そして的確に、赤い裏ソフトの面で彼女のいない、オープンスペースへと、叩き込んだ。


 静寂 3 - 0 田中


 田中選手の、二本目のサーブ。


 彼女は、今度は短い、ラリーを嫌ったのだろう。


 先ほどとは一転、速いロングサーブを、私のバックサイド、深くへと送り込んできた。


(…なるほど。戦術を、切り替えてきたか。だが、それもまた、私の、予測の、範囲内です、なぜなら、そうするしかないのだから。)


 私は、その速いサーブに対し、後退はしない。


 むしろ、一歩前に踏み込み、そして、ラケットを、再び、黒いアンチラバーの面に、合わせた。


 そして、ボールの威力を利用し、そして殺し、鋭いナックル性のプッシュで、相手のフォアサイド、ネット際に、短く、そして低く、返球した。


「なっ…!?」


 強烈な、ドライブの、応酬を、予測していた、田中選手の体が、完全に固まる。


 彼女は、慌てて、前に、駆け込む。


 だが、その、死んだ、ボールを、持ち上げることは、できない。


 彼女の、ラケットに当たった、ボールは、力なく、ネットを、揺らした。


 静寂 4 - 0 田中


 コートサイドで、未来さんが、感嘆の、息を、漏らしたのが、見えた。


「…すごい。しおりさん、相手の全ての戦術を、完全に、支配しています。田中選手は、もう、何を、すればいいのか、分からなくなっている…」


 そうだ。


 これこそが、私の、卓球。


 相手の、思考を読み、その、前提を破壊し、そして、相手が、思考そのものを、放棄するまで、追い詰める。


 私の「実験」は、今、完璧な、データを、収集し続けていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ