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異端の白球使い  作者: R.D
ブロック大会編
322/674

トーナメント表(2)

 私の隣には、当然のように、葵がいる。その距離感は相変わらず、周りの思考をバグらせるほど近い。

 その、私たちの前に、息を整え終えた、部長がやってきた。

「ふう…。危なかったぜ、マジで…」

 未来さんが冷静に、部長に問いかける。

「部長さん。次の二回戦のお相手は、確認しましたか?」


「ああ。確か北園中学の三年だったな。日向、お前のとこの先輩か?」

 部長のその言葉に、葵がぴくりと反応した。

 彼女はトーナメント表を覗き込み、そして、ああ、と声を上げた。


「はい。その人うちの部の三年生の先輩です。知ってますよ」


 そして、彼女はまるで、それが当たり前のことであるかのように、部長にその選手の分析データを、話し始めた。

「あの先輩は、左利きのドライブマンです。フォアハンドのカーブドライブが、すごく、いやらしい。でも、バックハンドは、基本的にブロック主体で、あまり攻撃的には振ってこない。だから、バック側を、徹底的に攻め続ければ、チャンスは生まれるはずです。」


 その、あまりにも、的確で、そして、詳細な、情報。

 それに、驚いたのは、部長だった。


「お、おい、日向。いいのか?そんな、味方の手の内を、ぺらぺらと…」


 彼のその、スポーツマンシップに、則った気遣いの言葉。

 それに対し、葵はくるりと、部長の方を向き、そして、これまでの、彼女からは、想像もできないような、悪戯っぽい、笑みを、浮かべた。


「大丈夫ですよ。あの先輩、そういうのあんまり、気にしない、大雑把な人なんで。」


 そして、彼女は、続ける。その瞳は、きらきらと、輝いている。


「それに、これは、貸し借りの、精算です。」


「…貸し借り?」


「はい。私がしおりの戦術を研究するために、県大会のビデオを全部見た時、あなたの、パワープレイも、嫌というほど、見させられましたから。あなたの、データも、しおりの研究の、巻き添えで、こっちには、筒抜けなんです」


 彼女は、そこで、ぺろり、と舌を出した。


「私がしおりを、研究してなければ、部長さんのことなんて目に止まらなかったかもしれない。だから、これで、フィフティ・フィフティ、じゃないですか?」


 その、あまりにもクレバーで、そして、少しだけ小悪魔的な、彼女のロジック。

 部長は、一瞬完全に言葉を失い、そして次の瞬間、がっくりと、肩を、落とした。


「……はっ。お前、言うなあ、しおりの親友を務められるだけはあるぜ。」


 彼のその声には、呆れと、感心と、そしてどこか救われたような、安堵の色が、混じっていた。

 彼は立ち上がり、そして葵の頭を、わしわしと少しだけ、乱暴に撫でた。


「…分かったよ。その情報、ありがたく、使わせてもらうぜ。サンキューな、日向」


 その部長の手の感触に、葵は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに嬉しそうに、そして少しだけ恥ずかしそうに、はにかんだ。


 私は、その、二人の、やり取りを、ただ、黙って、観測していた。


 私の「静寂な世界」に、また一つ、新しい、そして、予測不能な、温かい、光が、差し込んできていた。

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