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異端の白球使い  作者: R.D
ブロック大会編
321/674

トーナメント表

「しおりさん。次の、二回戦の、組み合わせが、出ています。確認に、行きましょう」


 未来さんの静かな声で、私は、はっと我に返った。


 私たちが、トーナメント表へと、向かう、その時だった。


「しおり!」


 すぐ、隣から声がして、私の腕に、誰かの手が、そっと絡みついた。


 驚いて、横を見ると、そこにいたのは、葵だった。


 彼女は、試合が終わってから、ずっと、こうして、私の、すぐ、そばから、離れようとしない。


 その、距離感は、昔、私たちが、まだ、ただの「親友」だった頃の、それと、全く、同じだった。


「次、誰と当たるの?私、知ってる子かもしれないから、見てあげる」


 彼女は、そう言って、当たり前のように、私の、隣を、歩く。


 その、私たちの、姿を、一歩、後ろから、歩いてくる、あかねさんが、どこか、寂しそうな、そして、ほんの少しだけ、不満そうな顔で、見つめていることに、今の、私は、まだ、気づいていなかった。


 トーナメント表の前に、たどり着く。


 未来さんが、冷静に私の次の対戦相手の名前を、指差した。


「…二回戦の、相手は、東山中学の田中 恵選手ですね」


 田中 恵。


 私の、データベースには、存在しない名前だ。


(…タブレットで、過去の試合データを検索して…)


 私が、そう思考を、巡らせたその、瞬間だった。


「あ、田中さんだ。知ってるよ、その子」


 私の隣で、葵がそう言った。


 彼女のその言葉に、私だけでなく未来さんも、あかねさんも、驚いて彼女の顔を見る。


 葵は、そんな私たちの視線など、意に介さず続けた。


「練習試合で、一度当たったことがある左利きの選手だよ。フォアハンドのドライブがすごくいやらしい、カーブを描くの。あと、バック側から、出してくる、横回転サーブ。あれが、結構、厄介だったな」


 彼女のその言葉は、未来さんのデータ分析とは、また、違う。


 実際に、対戦した者だけが、持つ体感という、極めて、質の高い、情報。


「…弱点は?」


 私が、そう、尋ねると、葵は、待っていましたとばかりに、続けた。


「バックハンド。長いラリーになると根負けして、ミスが、増える癖がある。だから、彼女のフォアのドライブを、どう凌いで、バックを攻め続けられるかが、鍵になると思う」


「でも、しおりなら勝てる相手だと思うよ!」

 葵が、当然だとも言うように宣言する。

(…なるほど。極めて、有益な、データだ)

 楽観的なのか実際にそうなのか分からない宣言を横に、戦術を脳内で組み立てる。


 未来さんが、感心したように、頷く。


「…貴重な、実戦データですね。私の、データと、組み合わせれば、より、精度の高い、戦術モデルが、構築できます」


 あかねさんも、「そ、そうなんだ…!すごいね、日向さん…!」と、素直に、感心している。だが、その、声には、どこか、マネージャーとしての、自分の、役割を、奪われたかのような、ほんの、わずかな、寂しさが、滲んでいた。


 私は、隣に立つ、葵の、顔を、見た。


 その、瞳には、「どう?役に立った?」と、言いたげな、期待の、光が、宿っている。


 彼女は、彼女なりの、やり方で、私の、力に、なろうとしてくれている。


「今の、あなたを、知りたい」という、彼女の、言葉。


 それは、本気だったのだ。


 私は、彼女に、向き直り、そして、静かに、告げた。


「……葵。」


 その、呼び名に、彼女の、肩が、びくりと、震える。


「その、情報。参考に、させてもらいます。ありがとうございます」


 私の、その、言葉に、彼女の、顔が、夕暮れの、空のように、ぱあっと、明るくなったのを、私は、見逃さなかった。

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