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異端の白球使い  作者: R.D
ブロック大会編
314/674

過去との対峙(10)

 静寂 6 - 1 日向


 初めて、このセットで奪った一点。

 それは、勝利への一点ではない。

 私の想いが彼女に届いたという、何よりも確かな証。

 私は、汗を拭い、そして次のサーブへと入る。


 そうだ。

 私の、本当の「救済」はここから始まるのだ。


 諦めない。

 絶対に。

 あなたが、再び笑ってくれるその日まで。


 サーブ権はまだ私にある。二本目。

 私の心には、もう焦りも怒りもない。

 ただ、純粋に「ここにいるよ」と、伝えるためのボールを打つだけだ。


 私は、強い、下回転をかけた、サーブを、彼女の、コートへと、送った。


 ラリーが、始まる。


 彼女は、またあの忌まわしい黒いラバーで、私の想いをいなしてくる。


 ナックル、スピン、ストップ、そして、カット。


 変幻自在の技の数々。

 でも、もう私は惑わされない。

 私は、ただひたすらに、ボールに食らいついた。

 一点、一点、取られても、いい。

 無様に、コートを、走り回っても、いい。


 ただ、一球でも多く、あなたとボールを、打ち合いたい。

 一球でも多く、私のこの想いを、あなたに届けたい。


 私の、そのあまりにも、真っ直ぐなプレー。


 それが、逆に彼女の思考を、僅かに乱したのかもしれない。


 私が、捨て身で放った、ドライブが、彼女のブロックを弾き飛ばした。


 静寂 7 - 2 日向



 静寂 7 - 3 日向



 スコアは、相変わらず開いたままだ。

 でも、不思議と心は折れなかった。


 むしろ、ラリーが続くたびに、私の心は満たされていくようだった。


 そうだ。私は、こうやって、あなたと向き合いたかったんだ。


 だが、彼女は、そんな私の感傷など、お構いなしに、その冷徹な卓球を、続けてくる。


 静寂 7 - 5 日向


 彼女の、サーブ。


 ハイトスからの、偽装モーション。


 私の思考が、一瞬停止する。


 その隙を、見逃さず、彼女は的確にポイントを奪っていく。


 静寂 8 - 5 日向


 静寂 9 - 5 日向


(…強い。あなたは、本当に強いんだね、しおり)


(でも、私も、もう、逃げない。あなたから、目を、逸らさない)


 サーブ権が、私に、移る。


 私は、もう一度、想いを込めて、サーブを打つ。


 ラリーになる。


 長い長い、ラリー。

 私の、足は、もう限界に近い。

 肺が、焼き切れそうだ。

 でも、私は、ラケットを振り続ける。


(私は、ここにいるよ!)


 その、声にならない、叫びが、届いたのだろうか。


 私の、渾身の、一撃が、コートの、隅を、捉えた。


 静寂 9 - 6 日向


 だが、次の、一点。


 私の、サーブからの、ラリー。


 その、5球目だった。


 私が、ドライブを、打とうとした、その瞬間。


 彼女が、ふっと台から下がり、あのカットの、体勢に入った。


 私の、思考が、一瞬停止する。


 その、隙を、彼女は見逃さなかった。


 カットと見せかけた、その体勢から、彼女は一気に前に踏み込み、カウンターのスマッシュを、私のコートに叩き込んできた。


 静寂 10 - 6 日向


 マッチポイント、しおり。


 ああ。


 ついに、この瞬間が、来てしまった。


 私のこの長くて、そして苦しかった戦いが、終わってしまう。


 私は、顔を上げた。


 ネットの向こう側で、しおりが、静かに、そして、冷たく、私を見つめている。


 その、氷の仮面の下の本当のあなたは、今何を思っているの…?


 私の想いは、少しでも、あなたに届いたの…?


 その答えを、求めるように、私は、ただじっと、彼女のその、深淵のような瞳を、見つめ返していた。



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