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異端の白球使い  作者: R.D
ブロック大会編
310/674

過去との対峙(7)

第二セットは、終わった。

セットカウントは、2-0。しおりの、リード。

私は、ベンチに戻ることもできず、その場に立ち尽くしていた。

頭が、理解を、拒絶している。

最後に見た、あの光景。


私の、全ての「想い」を乗せた渾身のサーブ。それが、いとも簡単に、無に還され、そして、私自身の胸元に、刃となって、突き刺さった、あの一球。


(…なぜ…?)


私の、思考が、堂々巡りを、繰り返す。


第一セットは、違った。


確かに、彼女のプレーは冷たかった。でも、そのラリーの中には、確かに、「対話」が、あったはずだ。


私の想いに、彼女の心が、ほんの少しだけ揺れ動いた、瞬間が確かに、あった。


10-5から、10-6になった、あの一点。


あの時、彼女は確かに迷っていた。氷の仮面の下にいる、本当のあなたが、顔を出しそうになっていた。


(…なのに、なぜ、最後は、あんな…)


そこまで、考えた、その時だった。

私は、はっと、気づいた。


(…そうか。そういうことか、しおり)


そうだったんだ。

あの、最後の一球。あの、あまりにも、残酷な、拒絶。

あれこそが、彼女の、本当の「恐怖」の、現れだったんだ。


彼女は、怖かったのだ。


私の「想い」が、彼女の、その、固く、閉ざされた、心の扉に、届いてしまうことが。

昔の、感情豊かな自分が、その氷の仮面を破って、出てきてしまうことが。

だから、彼女はあの土壇場で、再びその冷徹な仮面を、被り直し、私との「対話」を、一方的に、打ち切った。


私を、傷つけることで、自分自身を、守ったんだ。


「葵、大丈夫か。しっかりしろ」


ベンチから、先生の心配そうな声が、聞こえる。


私は、ゆっくりとそちらを振り返った。そして私は、これまでにないほど、穏やかに、そして力強く微笑んでみせた。


「先生。大丈夫です。…分かりましたから。」


「…何が、分かったって言うんだ」


「彼女が、何を一番恐れているのか、です」


私は、ラケットを強く握り直した。


そうだ。私は、間違っていなかった。


私の、やり方は、正しい。


ただ、少しだけ、やり方が、生ぬるかっただけだ。


(あなたの、その、氷の仮面。それが、あなたの、最後の、防壁なんだね)


(ならば、いい。その、壁が、砕け散るまで、私は、何度でも、何度でも、あなたの、心の、扉を、叩き続けてあげる)


この試合は、あなたを取り戻すための、戦い。


その、覚悟は、まだ、少しも、揺らいでは、いない。


彼女は、サポーターの、あのミステリアスな、少女と、何か話している。


その、横顔は、相変わらず、氷のように冷たい。


(いいよ、しおり。今は、それで、いい)


(でも、次のセットで、必ず、あなたの、その、仮面を、引き剥がし、そして、昔のように、泣いて、笑って、怒る、本当の、あなたを、私が、救い出してあげる)


インターバル終了を、告げる、ブザーが、鳴り響く。


私の、本当の「救済」は、ここから、始まるのだ。

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