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異端の白球使い  作者: R.D
ブロック大会編
307/674

過去との対峙(6)

 インターバル終了のブザーが鳴り響く。

 私は、ベンチから立ち上がり、コートへと向かった。

 第一セットは落とした。スコアの上では私は負けた。

 でも、そんなことはどうでもいい。

(…見てる、しおり?あなたの、その仮面。私が想いをぶつけるたびに、ほんの、少しだけひび割れていくのが)

(大丈夫。この、第二セットで、必ずその仮面を、全部剥がしてあげるから)


 サーブ権は私から。

 私は、ボールを高くトスした。

 そして、放ったのは、小手先の変化サーブではない。

 私の、全ての「想い」を乗せた、真っ直ぐな、そして速いロングサーブ。

(しおり、思い出して)

(昔の私たちみたいに、ただ、楽しく打ち合おう!)


 私の、その挑戦状。

 それに対し、しおりは応えてくれた。


 彼女は、あの忌まわしい黒いアンチラバーを、使わなかった。


 ラケットの、赤い裏ソフトの面で、私のサーブを、力強いドライブで打ち返してきたのだ!

(…!乗ってきた…!)

 私の胸が高鳴る。


 そこから、第一セットとは全く異なる光景が、繰り広げられた。


 私が、想いを込めてドライブを叩き込めば、彼女もまた、その正確無比なドライブで応戦してくる。


「パァンッ!」「パァンッ!」


 体育館に、爆発音のような打球音が、響き渡る。


 そうだ、これだ。これこそが、私が求めていたあなたとの「対話」。


 小手先の、ごまかしじゃない。


 お互いの、全てを、ぶつけ合う、魂の、ラリー。


 静寂 1 - 1 日向


 静寂 2 - 2 日向


 静寂 3 - 3 日向


 スコアは、一進一退。


 ポイントの、勝ち負けなんて、もはや、どうでもよかった。


 私は、ただ、嬉しい。


 あなたが、私の土俵に乗ってきてくれたことが。


 あなたが、氷の仮面を少しだけ忘れて、私と向き合ってくれてるという、その事実が。


 ラリーは、さらに、熱を帯びていく。


 スコアは、5-5。


(もう少し…。あと、もう少し、強く、あなたの、心の、扉を、叩けば…!)


 私は、これまでの、どの、一球よりも、強く、そして、速い、ドライブを、彼女の、コートへと、叩き込んだ!


 それは、私の、全ての、想いを、乗せた、渾身の、一撃。


 その、瞬間だった。


 それまで、私と、真っ向から、打ち合ってくれていた、彼女の、表情が、すっと、あの、氷の仮面に、戻ったのは。


 彼女は、私の、その、渾身の、一撃に対し、ラケットを、ひらりと、翻した。


 そして、その、黒いアンチラバーの面で、私の、ボールを、迎え撃ったのだ。


「トン」という、乾いた、無機質な音。


 私の、全ての「想い」が、乗ったボールは、その、黒い、深淵に、一瞬で、吸い込まれ、そして、全ての、力を、失った。


 力なく返ってきたそのボールを、私は、打ち返すことができない。


 静寂 6 - 5 日向


(…なぜ…?)


(やっと、届き始めたと、思ったのに…)


(どうして、また、その仮面の中に、隠れてしまうの…?)


 私の、思考に、焦りが、生まれる。

 その、焦りが、私の、プレーを、狂わせていく。

 私は、何度も、何度も、強打を、繰り返す。

 だが、彼女は、もう、私と、打ち合っては、くれない。


 ただ、冷静に、そして、冷徹に、私の、その、感情の、奔流を、あの、黒い、ラバーで、いなし続ける。


 私の、ドライブが、ネットに、かかる。


 私の、スマッシュが、台を、オーバーする。


 スコアだけが、無情に、離れていく。


 静寂 8 - 5 日向


 静寂 9 - 5 日向


 違う。


 こんなことが、したいんじゃない。


 私は、あなたと、ただ…。


 静寂 10 - 5 日向


 セットポイントを、握られた、その時。


 私は、ラケットを、握り直し、そして、ネットの向こう側の、しおりを、強く強く、強く睨みつけた。


(…分かったよ、しおり。あなたは、まだ、怖いんだね)


(本当の、自分を、見せるのが。昔の、私たちに、戻るのが)


(ならば、いい。私が、その、恐怖ごと、あなたの、その、頑なな、心を、こじ開けてあげる)


 この試合は、あなたを取り戻すための、戦い。


 その、覚悟は、まだ、少しも、揺らいでは、いない。


 私の、本当の「救済」は、ここから、始まるのだ。


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