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異端の白球使い  作者: R.D
ブロック大会編
305/674

過去との対峙(4)

 静寂 10 - 10 日向


 追いついた。

 あの、7-3という、絶望的なスコアから。


 私の声が、私の想いが、やっと、あなたに届き始めた。


 ネットの向こう側で、しおりが、静かに息を整えている。

 その、氷の仮面には、ほんのわずかに、動揺の色が浮かんでいるように、私には見えた。


 そうだ。それで、いい。


 もっと、あなたの心を、揺さぶってあげる。

 あなたが、忘れてしまった本当の、感情を思い出させてあげる。


 サーブ権は、しおり。

 彼女が、放ったのは、あの忌まわしいナックル性の、ショートサーブ。


 だが、もう私は、惑わされない。


 私は、その死んだボールに、駆け込み、そして私の、全ての、想いを乗せて、ドライブを叩き込む!


 ――しおりぃぃっ!

 私の心の叫びが、ボールに乗り移る。


 しおりは、その、私の、ドライブを、また、アンチラバーで、ブロックする。

 だが、そのブロックは、今までの、それとは違う。

 ほんのわずかに、ボールが甘く、浮き上がった!


(見つけた…!)


 あなたのその、仮面の下の、ほんの一瞬の迷い。

 私は、その、チャンスボールを、見逃さない。


 渾身の、フォアハンドスマッシュが、彼女のコートを、撃ち抜いた!


 静寂 10 - 11 日向


 セットポイント、私!


 よしっ!あと一点!


 この一点を取れば、あなたのその、頑なな心の扉を、こじ開けることができるかもしれない!


 サーブ権は、私。


(しおり。この、一球で、あなたを、救ってあげる…!)

 私は、渾身の力を込めて、ロングサーブを放った。

 だが、しおりはその私の想いを、嘲笑うかのように、冷静だった。


 彼女は、そのサーブを、アンチラバーで、いとも簡単に、いなす。


 そして、ラリーの中で、私の焦りから、生まれた、ほんのわずかな隙を、的確に突いてきた。


 私の返球が、ネットに、かかる。


 静寂 11 - 11 日向


(…そうやって、また、心を、閉ざすんだね。でも、無駄だよ。私が必ず、その扉を、こじ開けてあげる!)


 サーブ権は、しおり。


 彼女は、今度もまた、あの心を削り取るような、ナックルとスピンのコンビネーションで、私を、揺さぶってくる。


 私は、必死に、食らいつく。


 長い、長い、ラリー。


 だが、最後は、私の、ドライブが、ほんの数ミリ、高さが足りず、ネットに引っ掛かってしまった。


 静寂 12 - 11 日向


 セットポイント、しおり。

(…まだだ。まだ、終わらない…!)

 サーブ権は、私。


 私は、もう一度全ての想いを、この一球に込めた。


 捨て身の、ドライブの、応酬。

 そして、その想いが通じたのか、私の放ったスマッシュが、台の端を僅かにかすめ、エッジボールとなった。


 静寂 12 - 12 日向


 三度目の、デュース。


(見てる、しおり?これが、私の、想いだよ!)

 だが。

 次の、しおりのサーブ。

 それは、私の知らない、新しい、サーブだった。


 ハイトスから、放たれる、予測不能な、ナックル。


 私の、体が、反応できない。


 静寂 13 - 12 日向


 そして、次の、私のサーブ。


 私は、もう一度、想いを、込めて、打つ。


 ラリーになる。


 打ち合う。


 叫ぶ。


 しおり、と。


 だが、その、私の、渾身の、一撃は、彼女の、あの、黒い、アンチラバーの、壁に、吸い込まれ、そして、力なく、私の、コートへと、返ってきた。


 私は、もう、そのボールを、拾うことが、できなかった。


 静寂 14 - 12 日向


 …待って。


 スコアは、私の、記憶と、違う。


 13-13


 そう、あなたの、メモには、書かれていたはず。


 そうだ、あの、13-12の、私のサーブ。あれは、入った。そして、ラリーの末、私が、ポイントを、取ったのだ。


 13-13。


 そして、しおりのサーブ。それを、私が、レシーブエースで、奪い返す。


 13-14。私の、セットポイント。


 そうだ。私は、勝っていたはずなんだ。


 なのに、なぜ。


 目の前の、スコアボードは、「14-12」で、しおりの、勝利を、告げている。

 第一セットは、終わった。


 私は、負けた。

 私の、「救済」は、届かなかった。

 でも、いい。


 私は、ラケットを、握り直し、そして、ネットの向こう側の、しおりを強く強く、睨みつけた。


(…今の、あなたは、確かに、強かった)


(でも、あなたの、その、氷の仮面。私が、想いを、ぶつけるたびに、ほんの、少しだけ、ひび割れていくのが、見えた)


(大丈夫。次のセットで、必ず、その仮面を、全部、剥がしてあげるから)


(待っていてね、私の、しおり)



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