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異端の白球使い  作者: R.D
ブロック大会編
304/674

過去との対話(4)

 静寂 5 - 3 日向


 サーブ権が私に移る。スコアは、5-3。私が、2ポイントリード。

 ネットの向こう側で、葵がラケットを強く握りしめ、私を、睨みつけている。

 その顔には、もう、迷いはない。


 あるのは、私を、絶望の淵から、必ず、救い出してみせる、という絶対的な覚悟だけ。


 彼女の、その、あまりにも痛々しいほどの、一途な「想い」がびりびりと、空気を通じて、私にまで伝わってくるようだった。


 私は、サーブを、放った。


 大きなモーションから、繰り出される、ハイトスサーブ。


 そしてその、高いトスから、私は、赤い裏ソフトの面で、ボールに、強烈な、横下回転を、与えた。

 ボールは、低い弾道で、葵の、フォアサイド、ネット際に、鋭く、食い込んでいく。


 葵は、その、私の、新しい「問いかけ」に、驚異的な、集中力で、食らいついてきた。


 彼女は、低い姿勢から、その、難しい、サーブを、ドライブで、持ち上げる!


(…見事な、レシーブ。だがこの、ラリーの、主導権は、私が、握る)


 3球目。私は、その、ループドライブに対し、台から、一歩、下がる。


 そして、未来さんとの、練習で、完成させた、新しい、守備戦術。

 カット戦術を展開する。


 私は、ラケットを、黒いアンチラバーの面に、持ち替え、彼女の、ドライブの、威力を、完全に、「無」へと、還す、ナックルカットで、返球した。


 ボールは、ふらふらと、相手コートへと、飛んでいく。


「――まだまだっ!」


 葵は、その、死んだ、ボールに、再び、自らの、回転と、パワーを、与えようと、力強い、ドライブを、叩き込んできた。


 だが、私は、その、彼女の「想い」を、再び、いなす。


 今度は、赤い裏ソフトの面で、強烈な、下回転カットを、かけて、返す。


 ナックル、下回転、ナックル、下回転…。


 その、悪夢のような、応酬の中で、葵の、あの、パワフルな、ドライブの、精度が、ほんの少しずつ、狂い始めていく。


 そして、ラリーが、10本を、超えた、その時。


 ついに、彼女の、ドライブが、私の、ナックルカットの、その、予測不能な、揺らぎに、対応できず、ネットに、かかった。


 静寂 6 - 3 日向


 私の、二本目のサーブ。


 再び、ハイトスサーブ。


 だが、今度は、同じモーションから、ラケットを、黒いアンチの面に、合わせ、高速の、ナックルロングサーブを、放つ。


 葵は、その、奇襲に、完全に、意表を突かれた。


 彼女の、ラケットは、空を、切り、エースとなった。


 静寂 7 - 3 日向


(…どうですか、葵。これが、今の、私です)


(あなたの、知らない、戦術。あなたの、知らない、技術。あなたの、知らない、私)


(あなたの「想い」だけでは、もう、この、私の、冷たい「論理」には、届かない…)


 私は、そう、心の中で、彼女に、告げた。


 だが、ネットの向こう側で、顔を上げた、葵の、瞳。


 その、瞳には、絶望の色は、なかった。


 彼女は、ふっと、息を吐き、そして、にっ、と、まるで、挑戦者のように、不敵に、笑ったのだ。


 そして、次の瞬間から、彼女の、卓球が、明らかに、変わった。


 サーブ権が、彼女に移る。


 彼女は、もう、私との、ドライブの、応酬を、望んでいない。


 彼女が、放ってくるのは、全て、ネット際の、短い、そして、いやらしい、サーブ。


 私を、台の上に、釘付けにし、そして、短い、ラリーの中で、一撃必殺の、強打を、狙ってくる。


(…なるほど。私のカット戦術を、発動させないために、戦術を、切り替えてきた、というわけですか)


(私の、土俵で、戦うことを、やめた。面白い…)


 そこからは、再び、一進一退の、攻防が、始まった。


 私の「マルチプル・ストップ戦術」と、彼女の「前陣での、超攻撃」。


 二人の、思考と、技術と、そして、想いが、激しく、火花を、散らす。


 スコアは、もつれ、そして、この、第一セットは、ついに、10-10のデュースへと、もつれ込んでいった。


 この、長くて、そして、苦しい、「対話」に、終わりは、まだ、見えなかった。



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