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異端の白球使い  作者: R.D
ブロック大会編
303/674

過去との対峙(3)

(…そうか。分かったよ、しおり)

(あなたの、その仮面は、私がこうやって過去の記憶に触れようとすると、より硬く、そして冷たくなるんだね)

(ならば、いい。何度でも、やってあげる)


 そうだ。それが、あなたを取り戻すための手段。

 あなたのその、氷の仮面を剥がすための、唯一の鍵。

 私は、ラケットを、握り直した。


 もう、迷いはない。


 あるのは、愛する人を、その深い深い、絶望の淵から、必ず救い出してみせる、という、絶対的な覚悟だけ。


 サーブ権はまだ私にある。二本目。

 私は、ボールを手の中で、一度、強く握りしめた。


(しおり。聞こえる?私の、声が)

(今度は、この、サーブだよ)


 私が放ったのは、昔、私たちが、まだただの卓球好きな、子供だった頃。


 公民館の、あの埃っぽい卓球台で、私が何度も何度も練習した、ただの、横回転サーブ。


 あなたはいつも、この私の癖のある、横回転サーブが、苦手だった。


「あおのサーブ、なんか、変な曲がり方するから、やだ」って、いつもそう言って、拗ねていた。


 その、懐かしい記憶の扉を、ノックする、一球。


 しおりは、そのサーブを、やはりあの、黒いアンチラバーで、レシーブしてくる。

 ボールは、私の回転を殺され、力なく、私のコートへと返ってくる。


(そう。また、あなたは、そうやって、私の「想い」を、無かったことにするんだね)

(でも、もう、騙されない)


 私はその、死んだボールに駆け込む。


 そして、私の、全ての想いを乗せて、ドライブを、叩き込む!

 私の想いが、叫びが、ボールに乗り移る。


 しおりは、私のドライブを、またアンチラバーでブロックする。

 その、ラリーの、応酬。

 私はひたすら、昔の記憶をなぞるように、ボールを打ち続ける。

 あの頃、私たちが、笑いながら打ち合ったコースへ。

 あの頃、あなたが、苦手だった回転をかけて。


 だが、彼女は決して乗ってこない。

 私のその、感情の奔流を、彼女はただ冷静に、そして冷徹に、あの黒い忌まわしいラバーで、いなし続ける。


(なぜ!?どうして、思い出してくれないの!?)


 私の思考に、焦りが生まれる。

 その焦り。

 私のドライブの軌道が、ほんのわずかに、甘くなった。


 彼女は、それまで、守備に、徹していた、ラケットを、瞬時に、反転させ、赤い裏ソフトの、鋭い、カウンタードライブで、私の、コートを、撃ち抜いた。


 静寂 5 - 3 日向


 また、ポイントを、取られた。

 でも、いい。

 分かったから。


 私は、ラケットを握り直し、そして、ネットの向こう側の、しおりを強く強く、睨みつけた。


(その、仮面が、砕け散るまで、私は、何度でも、何度でも、あなたの、心の、扉を、叩き続けてあげる)


 私にとってこの試合は、あはたを取り戻すための何よりも重要な一戦。


 これは、ただの戦いじゃない、神様がきまぐれにチャンスをくれた、あなたを取り戻すためのチャンスを。

 必ず救って見せる、氷の仮面を、一枚一枚、丁寧に剥がして、最後には必ず。

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