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異端の白球使い  作者: R.D
ブロック大会編
301/674

過去との対話(3)

静寂 2 - 2 日向


サーブ権が、私に移る。スコアは、2-2のイーブン。


ネットの向こう側で、葵が、悔しそうに、しかし、まだ、その瞳の奥の、闘志の炎は、消えていない。


彼女は、まだ、信じているのだろう。自らの「想い」の力が、私の、その、小手先の「理屈」を、打ち破ることができる、と。


(…いいでしょう。ならば、今度は、私から、あなたに、「対話」を、仕掛けます)


私は、ボールを、高く、トスした。そして、放ったのは、私の、数ある「手札」の中でも、最も、基本的な、しかし、だからこそ、彼女の、記憶の、深い場所に、残っているであろう、一球。


大きな、テイクバックのモーションから、赤い裏ソフトの面で、ボールの側面を、鋭く、擦り上げる。


強烈な、横回転サーブ。


(…この、サーブ。覚えていますか、葵)


(小学生の時、私が初めて大会で使った、サーブ。あなたは、この、サーブが、どうしても、取れなくて、試合の後、悔しくて、泣いていた。そして、私は、そんな、あなたの、隣で、どうしていいか、分からずに、ただ、立ち尽くしていた…)


葵の、体が、その、あまりにも、懐かしい、サーブの軌道に、完璧に、反応した。


彼女は、その、横回転を、読み切り、力強い、ドライブで、返球してくる!


そうだ。あなたは、もう、あの頃の、あなたではない。


そこから、ラリーが、始まった。


私は、彼女の、強打に対し、アンチラバーで、応戦する。


回転を、殺し、リズムを、ずらし、彼女の、その、感情の、奔流を、いなしていく。


あなたの「想い」は、もう、私には、届かない。そう、言っているかのように。


だが、彼女は、食らいついてくる。


私の、その、いやらしい、ナックルボールに、体勢を崩しながらも、決して、諦めない。


そして、ラリーが、7本、続いた、その時だった。


彼女が、苦し紛れに、放った、ドライブ。


その、フォーム。


(…ああ。あの、打ち方。私が、心を、閉ざした後、あなたが、一人で、泣きながら、壁に向かって、何度も、何度も、練習していた、あの、不格好な、でも、必死な、フォーム、そのものだ…)


その、あまりにも、痛々しい、記憶の、断片。


それが、私の、心の、一番、深い場所にある、氷の壁を、ほんの少しだけ、溶かした。


私の、返球が、一瞬だけ、躊躇う。


その、コンマ数秒の、躊躇を、葵が、見逃すはずもなかった。


彼女の次の一打が、私の、ラケットを、弾き、ポイントとなる。


静寂 2 - 3 日向


(…そうか。あなたは、ずっと、一人で、戦ってきたんだね。私が、あなたを、置き去りにしてしまった、あの日から、ずっと…)


私の、二本目のサーブ。


私は、今度こそ、全ての感情を、そして思考を、この、一球に込めた。


大きな、モーションから、放たれる、超低空ナックルロングサーブ。


私の、今の、全力。


それに対し、葵もまた、全力で、応える!


彼女は、その、死んだ、ボールを、驚異的な、集中力で、見極め、そして、ラケットに、当ててきた!


ボールは、回転がないまま、力なく、ネットへと、向かっていく。


だが、その、ボールの、軌道は、ネットの、白い、帯に、当たり、そして、葵のコートへと、力なく落下した。


静寂 3 - 3 日向


ネットの向こう側で、葵が、悔しそうに、しかし、どこか、納得したように、頷いている。


そうだ。

私たちの、この、対話は、まだ、終わらない。


お互いの、過去と、現在と、そして、未来を、全て、この、卓球台の上で、語り尽くすまで。

その、答えが、出るまで、この、長くて、そして、苦しい、ラリーは、続いていくのだ。

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