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異端の白球使い  作者: R.D
特別練習編
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特別練習・最終日 終わる練習

 体育館の、全ての電気が消された。

 三日間の、特別な練習が終わった。その、濃密すぎる時間の終わりを惜しむかのように、誰もが、すぐには、体育館を離れようとしなかった。

「いやー、本当に、実りのある三日間だったわ!ありがとう、第五中学のみんな!」

 高坂選手が、カラリとした、気持ちの良い笑顔で、私たちに、そう言った。

「他の大会で、会うのを楽しみにしてるからね!その時は、絶対に、負けないから!」

 彼女の、その、どこまでも真っ直ぐな宣戦布告に、私は、静かに、頷き返した。

「…猛。」

 後藤選手が、部長の名前を呼んだ。その声には、もう、初日にあったような、硬さはない。

「…世話になったな。また、連絡する。」

「ああ。待ってる。」

 部長もまた、短く、しかし、確かな想いを込めて、そう応えた。

 二人の間に流れる空気は、まだ、少しだけ、ぎこちない。だが、それは、もう、あの、痛みを伴うものではなかった。長い、長い冬が終わり、ようやく、雪解けが始まったかのような、そんな、静かで、穏やかな、空気だった。

 高坂選手と、後藤選手が、校門で、私たちに手を振り、それぞれの駅へと、向かっていく。

 私たちは、その背中が見えなくなるまで、しばらく、黙って、見送っていた。

「…行っちゃいましたね。」

 沈黙を破ったのは、あかねさんの、少しだけ、寂しそうな声だった。

「なんだか、夢みたいでしたね、この三日間!すっごく、疲れましたけど、すっごく、楽しかったです!」

 彼女の、その、太陽のような笑顔に、隣にいた未来さんも、ふわりと、微笑んだ。

「ええ。非常に、有益なデータが収集できました。特に、しおりさんの新しい戦術と、部長と後藤選手の、あのラリーは…とても、興味深かったですね」

 未来さんの、その、どこまでも、分析的な言葉。

 だが、その瞳は、いつになく、優しく、そして、どこか、楽しげに、輝いていた。

 私は、そんな、三人のやり取りを、少しだけ、後ろから、歩きながら、聞いていた。

 私の思考ルーチンは、この、三日間の、膨大なデータを、繰り返し、反芻している。


 そうだ。

 私の「静寂な世界」は、もう、完全な無音ではない。

 部長の、あの、不器用な「熱」。

 未来さんの、あの、静かな「共感」。

 そして、あかねさんの、あの、無条件の「信頼」。

 それら、全て、私のロジックでは、解析不能な、ノイズのはずだった。

 だが、その、ノイズが、今の、私の心を、不思議な、そして、決して、不快ではない、感情で、満たしている。

「しおりちゃん、ブロック大会、楽しみだね!」

 前を歩いていた、あかねさんが、振り返り、私に、そう、笑いかけた。

 私は、その、茜色の夕暮れに照らされた、彼女の笑顔を見つめ返した。

 そして、私の口から、自分でも、少しだけ、驚くような、言葉が、漏れた。

「…はい。」

 私は、ほんのわずかに、口元を、緩めた。

「有益な、データが取れそうです。」

 私の、その、あまりにも「私らしい」返答に、あかねさんは、一瞬、きょとんとしたが、すぐに、「もう、しおりちゃんは!」と、楽しそうに、笑った。

 部長と、未来さんも、その様子を見て、優しく、微笑んでいる。

 夕暮れの、帰り道。

 私たちの、新しいチームの、本当の物語は、今、ここから、始まろうとしていた。

 私の、胸の中にある、この、まだ、名前の付けられない、温かい感情。

 その「正体」を、解き明かすための、長い、長い、実験の、始まりだった。

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