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異端の白球使い  作者: R.D
特別練習編
284/674

特別練習・二日目(7)

「パァンッ!」「バァンッ!!」

 体育館の奥のコートから聞こえてくる、しおりと高坂の、あの、人間離れしたラリーの音を、俺は、どこか遠くに聞いていた。

 俺の、今の、全ての集中は、ネットを挟んで、目の前に立つ、この男に注がれている。

 後藤 護。

 あいつとのラリーは、まるで、昔に戻ったみてえだった。

 俺の、全てを叩き込むような、パワー重視のドライブ。

 あいつの、その威力を、さらに鋭い回転でねじ伏せる、精密なカウンタードライブ。

 一進一退。互いに、一歩も譲らない。

(…ちくしょう。このままじゃ、ラチがあかねえ。俺のパワーは、こいつの技術と、粘りの前に、いつか、必ず、限界が来る。何か、変えねえと…!)

 俺は、後藤と、激しく打ち合いながらも、その思考の片隅で、しおりの、あの、常識外れの卓球を、思い出していた。

 相手の力を、利用し、無効化し、そして、相手の思考そのものを、支配する。

 パワーだけじゃない。リズムを変え、緩急をつけ、相手の予測を、裏切り続ける。

(…緩急、か)

 俺は、後藤の、強烈なドライブが、俺のフォアサイドへと、突き刺さってくる、その瞬間。

 決意した。

(…やってみるしか、ねえ!)

 俺は、それまで、ドライブを打ち返すために、大きく、後ろに引いていた、ラケットの動きを、ぴたりと、止めた。

 そして、その爆発的なパワーを生み出す、全身のバネの動きを、一瞬で、殺す。

 大きなモーションから、一転、信じられないほど、コンパクトで、そして、繊細な、タッチ。

 俺の、パワーを支えるテンション系裏ソフトで、ボールの、真下を、鋭く、そして、薄く、捉える!

 それは、しおりの、あの、回転を「殺す」アンチのストップではない。

 俺の、持てる、全ての技術と、手首の強さを、「切る」という、一点に、凝縮させた、強烈な下回転の、ストップ性のショートプッシュ。

 俺の、その、あまりにも「らしくない」一球に、後藤の反応が、コンマ数秒、遅れた。

 彼は、俺の、次の、パワーショットを、予測していたのだろう。台から、少しだけ、距離を取って、構えていた。

 彼は、慌てて、前に、駆け込む。そして、俺の、その、短いボールを、同じように、ツッツキで、返球しようとする。

 だが、その瞬間、後藤の顔が、驚愕に歪んだ。

 俺の、その、小さな、繊細な一球には、俺の、全身のパワーが、凝縮された、凄まじい「下回転」がかかっていたのだ。

 後藤のラケットに当たったボールは、その、予測を、遥かに超える回転量に、完全に、負けた。

 ボールは、彼のラケットの面を、まるで、舐めるように、滑り落ち、力なく、ネットへと、突き刺さった。

 体育館に、静寂が訪れる。

 俺も、後藤も、そして、俺たちのラリーを、遠巻きに見ていた、他の部員たちも、ただ、呆然と、その光景を見つめていた。

「……猛?」

 後藤が、信じられない、といった顔で、俺の名前を呼ぶ。

「…なんだ、今の…。お前から、あんな、切れた短いボールが来るとはな…」

 俺は、自分の、ラケットを見つめた。

 そして、込み上げてくる、笑いを、こらえきれずに、ふっと、息を吐いた。

「…うちの、すげえ一年生に、教わったんだよ。」

 俺は、そう言って、ニヤリと、笑ってみせた。

「緩急も、大事だってな。」

 そうだ。

 これこそが、俺の、新しい「引き出し」。

 圧倒的な「パワー」と、繊細な「ストップ」。

 しおりの「異端」とは、また、全く違う、俺だけの、「緩急」という名の、新しい武器が、生まれた、瞬間だった。


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