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異端の白球使い  作者: R.D
ダブルス編
225/674

予定外のダブルス(2)

 こうして、私、静寂しおりと、永瀬ゆいさんという、全く異なる「トラウマ」を抱えた、予測不能なダブルスペアが、このオープン大会の片隅で、静かに誕生したのだった。部長は、さっそく女子ダブルスのエントリーを済ませると、意気揚々と私たちを空いているコートへと連れて行った。

「よし!お前ら、試合まで時間もねえ!今から軽く練習するが、その前に、まず基本の『キ』からだ!」

 部長は、まるで自分が監督になったかのように、腕を組み、仁王立ちで私たちを見下ろす。彼のその有り余る熱量は、自分の「やらかし」を挽回したいという思いと、そして私たちのこの即席ペアへの純粋な期待から来ているのだろう。

「しおり、お前はサウスポーだ。そして、永瀬は右利き。この右左のペアはな、ちゃんとやれば、右利き同士のペアよりも圧倒的に有利なんだ。いいか、よく聞けよ!」

 部長は、指を一本立てて、熱弁を始める。

「まず、立ち位置だ!二人は台の中央、センターラインを挟んで『ハの字』になるように構える!こうすりゃ、どっちも自分のフォアハンドでボールを打ちやすくなるだろう!ダブルスってのはな、いかに自分の得意なボールで、しかも一番威力の出るフォアで打てる状況を作るかなんだよ!」

(…フォアハンドでの攻撃機会の最大化。確かに、合理的なポジショニングだ。私と永瀬さんの打球範囲の重複を最小限に抑え、コートカバー率を高める効果も期待できる)

 私は、彼のその熱弁を、冷静に分析し、その合理性を認識する。

「それから、一番大事なのは、打った後の動きだ!」部長の声が、さらに大きくなる。「打ったらすぐ動く!自分の打ったボールに見とれてんじゃねえぞ!しおりが打ったら、永瀬が次のボールを打ちやすいように、すぐにパートナーの邪魔にならない位置に動く!逆も同じだ!二人が同じ場所に突っ立ってたら、ただのお見合いにしかならねえからな!」

 その言葉は、ダブルスという競技における、基本的な、しかし最も重要なプロトコルを示していた。

「あの…」

 その時、これまで黙って話を聞いていた永瀬さんが、おずおずと、しかし的確な補足をした。

「部長さんの言う通りで…あと、右利きと左利きのペアだと、相手にとっては、ボールの回転が左右で交互に変わるように感じます。なので…相手は、その回転の変化に対応するのが、すごく難しくなるんです。」

 彼女の声はか細いが、その言葉には、中学2年生としての、そして多くの試合を経験してきたであろう確かな知識が込められている。

「そうだ!その通りだ、永瀬!よく分かってるじゃねえか!」部長は、彼女のその補足に、満足そうに大きく頷いた。「相手のリズムを崩せるってわけだ!だから、お前らのこのペアは、ちゃんと機能すりゃ、とんでもねえ化学反応を起こす可能性を秘めてるんだよ!」

(回転の変化…確かに。私のアンチラバーから放たれるナックルボールと、永瀬さんの(おそらくは)オーソドックスな回転系のボール。そして、右利きと左利きの打球角度の違い。これらの変数が組み合わさることで、相手の予測モデルに、より深刻なエラーを誘発できる可能性が高い…)

 私は、部長と永瀬さんの言葉から、この即席ペアの持つ潜在的なポテンシャルを分析し始めていた。

「よし!理屈はこれくらいだ!あとは実践あるのみ!まずは、サーブレシーブからだ!しおり、お前がサーブを出して、永瀬が3球目で決める!そのパターンを、体に叩き込め!」

 部長の号令一下、私たちの、初めてのダブルスの練習が始まった。

 永瀬さんは、まだ私の隣で、緊張と、そして過去のトラウマからくる恐怖で、ラケットを握る手が微かに震えている。だが、その瞳の奥には、ほんの少しだけ、この新たな挑戦への「期待」のような光が宿っているのを、私は見逃さなかった。

 この、予測不能な即席ペアが、どのような「データ」を私にもたらしてくれるのか。私の「実験」は、また一つ、新たなフェーズへと移行しようとしていた。

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