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異端の白球使い  作者: R.D
休息
189/674

ショッピング(3)

 私の新たな「武器」となるハイスペックなタブレット端末は、結局、私の「合理的な投資」という言葉と、その金額に対する感覚の麻痺(あるいは諦観)に至ったあかねさんの力ない同意のもと、滞りなく購入手続きが完了した。店員さんが丁寧すぎるほどに製品を梱包してくれる間、あかねさんはまだどこか遠い目をしていたが、私が「これで、次のブロック大会までに、より精密な戦術分析とデータ構築が可能です」と平坦な声で告げると、ハッとしたようにいつもの笑顔に戻り、「そ、そうだね!これでしおりもパワーアップだね!」と、少しだけぎこちなく私の肩を叩いたのだった。

 家電量販店を出ると、夏の強い日差しがアスファルトに照りつけていた。購入したばかりのタブレットが入った紙袋の、ずしりとした重みが、私の指先に確かな手応えとして伝わってくる。

(これで、私の「異端」は新たなフェーズに入る。情報管理の最適化、そして分析能力のさらなる向上…青木桜、そしてまだ見ぬ強敵たちに対し、私はさらに予測不能な存在となるだろう…)

 そんなことを冷静に分析している私の隣で、あかねさんが、ふと何かを思いついたように声を上げた。

「ねえ、しおり!」

 その声は、先ほどのタブレットの値段に少し引いていた時のものとは打って変わって、いつものように明るく弾んでいる。

「せっかくこうして二人で出てきたんだし、この後、ちょっとどこか寄っていかない?ほら、駅前に新しいクレープ屋さんができたって、クラスの皆が話してたし、可愛い雑貨屋さんとかも見て回りたいなーって!」

 彼女の瞳はキラキラと輝き、その提案には「女の子らしい遊び」への純粋な期待感が満ち溢れている。

(クレープ…雑貨屋…私の戦術分析やトレーニング計画には、現時点では組み込まれていないパラメータだ。時間的リソースの配分を考慮すると、優先順位は低い。だが…)

 私は、あかねさんのその、太陽のような屈託のない笑顔を見つめる。県大会での激闘、そしてその後の意識を失った私を、彼女は誰よりも心配し、支えてくれた。彼女の存在は、私の「静寂な世界」にとって、確実に無視できない、そして不快ではない「変数」となりつつある。

(…あかねさんのこの提案を拒否することは、論理的には可能だ。だが、それが彼女の感情パラメータにどのような影響を与え、ひいては今後の私たちの連携…いや、「仲間」としての関係性に、どのような変化をもたらすか…そのデータは、まだ不足している…)

 私の思考ルーチンが、珍しく明確な結論を弾き出せずにいる。それは、これまでの私にはなかった種類の、複雑で、そしてどこか温かい感情のノイズが混じり始めているからなのかもしれない。

「…しおり?どうしたの、難しい顔して。もしかして、甘いものは苦手だったりする?」

 あかねさんが、心配そうに私の顔を覗き込む。

 私は、ほんの少しだけ逡巡した後、いつも通りの平坦な声で、しかし自分でも意外なほどあっさりと、こう答えていた。

「…いえ。特に、問題ありません。行きましょうか、その…クレープ、というのを分析しに。」

 その言葉に、あかねさんの顔が、ぱあっと太陽のように輝いた。

「ほんと!?やったー!じゃあ、まずはクレープ屋さんね!私、チョコバナナカスタードがいいな!しおりは何にする?」

 私の腕を掴み、楽しそうに歩き出すあかねさん。その小さな手の温かさが、私の心に、また一つ、新しい種類のデータを記録していく。

(…「女の子らしい遊び」か。これもまた、私にとっては未知の領域。だが、悪くない。この「変数」が、私の「異端」に、どのような影響を与えるのか…興味深い分析対象だ…)

 夏の強い日差しの中で、私たちは、卓球とは少しだけ異なる、しかし確かな「日常」の一ページを、共に歩み始めていた。

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