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異端の白球使い  作者: R.D
休息
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ショッピング

 県大会の激闘から数日が過ぎた。あの決勝戦の直後に襲ってきた、全身の細胞が活動を停止するかのような深い疲労と、意識の混濁は、幸いにも数日の休養でほぼ回復した。私のラケット――魂は、今は自室の壁に、県大会の賞状と並んで静かにその存在を主張している。幽基未来さんからの手紙も、そこにそっと添えてある。

 だが、私の思考ルーチンは、既に次の戦いへとシフトしていた。ブロック大会は10月、そして全国大会は冬。それまでに、私は自身の「異端」をさらに深化させ、そして何よりも、県大会で露呈した情報管理の脆弱性を克服する必要があった。あかねさんのノートの一件、そして私の作戦メモの紛失…あれが単なる偶然ではないことは、私の分析でも明らかだ。そして、その背後に青木れいか選手、ひいては常勝学園の影が見え隠れしている以上、対策は急務だった。

(紙媒体での情報管理は、物理的な紛失リスク、そして第三者による不正アクセスの可能性を常に内包する。よりセキュアで、かつ効率的な情報管理システムへの移行が不可欠だ…)

 私が導き出した最適解は、タブレット端末によるデータの一元管理。暗号化とクラウド同期を行えば、紛失リスクと情報漏洩リスクを大幅に低減できるはずだ。

 そうと決まれば、行動は早い。私は、早速次の休日にでも、タブレット端末を購入しに行くことにした。だが、問題は、私自身がそういったデジタルデバイスの選定に、あまり時間を割いてこなかったという事実だ。私の興味とリソースは、常に卓球という一点に集中してきた。

(…この分野においては、あかねさんの情報収集能力と、現代的なデバイスへの知識が、私のそれよりも優れている可能性が高い…)

 私は、思考の結論を出すと、スマートフォンの連絡先からあかねさんの番号を呼び出し、発信ボタンを押した。コール音が数回鳴った後、明るい彼女の声が鼓膜を揺らす。

「はい、三島です!って、しおり?どうしたの、電話なんて珍しいね!」

 その声には、驚きと、そして私からの連絡に対する純粋な喜びのようなものが滲んでいる。

「あかねさん、お忙しいところ申し訳ありません。少し、ご相談したいことがあるのですが、今、お時間よろしいでしょうか。」

 私のいつも通りの平坦な声に、電話の向こうであかねさんが「うん!全然大丈夫だよ!しおりから相談なんて、なんだか嬉しいな!それで、どうしたの?」と、さらに声を弾ませるのが分かった。

「実は、近いうちにタブレット端末を購入しようと考えています。作戦データや試合映像の分析、そして今後の情報管理のためです。ですが、私自身、機種選定に関する知識が乏しい。そこで、もしご迷惑でなければ、あかねさんに選定のアドバイスをいただけないかと思いまして。」

 私のその申し出に、電話の向こうであかねさんの息をのむ音が聞こえた。そして、次の瞬間、予想通りの、いや、予想以上の熱量を伴った声が返ってきた。

「タブレット!?うん、いいよ、いいよ!そういうの、私、結構好きだし、得意かも!任せて!しおりの役に立てるなら、喜んで協力するよ!」

 彼女の快活な返事に、私の口元がほんのわずかに緩んだのを、彼女は電話越しには気づかないだろう。

「ありがとうございます。では、今度の週末にでも、一緒にお店を見て回っていただけると助かります。」

「もちろん!どんなタブレットがいいか、今から色々調べておくね!しおりの卓球にぴったりの、最高のやつ、見つけようね!」

 あかねさんは、そう言って力強く宣言する。その純粋な熱意は、電話越しにも関わらず、私の「静寂な世界」に、また一つ、温かい光を灯したようだった。

 こうして、私とあかねさんの、少し変わった「ショッピング」の予定が決まった。それは、新たな武器(情報管理システムという名の)を手に入れるための、そして何よりも、この頼もしい仲間との絆を、ほんの少しだけ深めるための、大切な時間となるのかもしれない。私の「異端」は、デジタルという新たな変数と、そしてあかねさんという心強いサポーターを得て、さらに予測不能な深化を遂げることになるのだろうか。それはまだ、誰にも分からない。

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