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異端の白球使い  作者: R.D
県大会 女子決勝

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166/694

惨敗

 静寂 3 - 7 青木


 桜選手は、少しも気を緩めることなく、正確なトスからサーブを放つ。今度は私のバックサイドへ、深く、そして回転量の多い下回転サーブだ。


 …この徹底した基本技術の高さ…そして、私が最も処理に迷うコースを的確に突いてくる。


 …やはり、私のデータは彼女の中で完璧に整理されていると考えた方がよさそうだ…。


 私は裏ソフトで慎重にツッツキで返球するが、ボールはわずかにネット際で浮いてしまう。


 桜選手はその甘いボールを見逃さず、フォアハンドで私のフォアサイド深くにドライブを打ち込んできた。完璧な3球目攻撃。


 静寂 3 - 8 青木


 …今のツッツキの質では、彼女には通用しない。もっと低く、もっと厳しくコントロールしなければ…だが、それすらも彼女は予測しているのかもしれない…。


 私の思考は、徐々に袋小路に入り込もうとしているかのように感じられた。


 桜選手は、再び同じような下回転サーブ。


 しかし今度は、コースを私のミドルへ変更してきた。


 …ミドルへのサーブ…私の体勢を崩し、両サイドへの変化ブロックを封じる意図か…。


 私はアンチラバーで対応。なんとかボールの回転を殺し、桜選手のバックサイドへ短く返球する。


 しかし、桜選手は素早く回り込み、その無回転ボールを強引にもちあげる。


 そしてフォアハンドでの強烈なループドライブ放った。


 ボールは高い弧を描き、私のバックサイド、エンドラインぎりぎりに落ちる。


 私は懸命に飛びつくが、ラケットにかすりもしない。


 静寂 3 - 9 青木


 観客席の部長が、腕を組み直し、眉間の皺を深くする。未来さんは、ただ静かにコートを見つめている。


 ベンチのあかねさんの表情も硬い。


 …このセットは…厳しいかもしれない。だが、まだだ。まだ、彼女の「王道」の中に隠された、僅かな隙を見つけ出せるはずだ…。


 私は、これまでの流れを断ち切るように、少し間を取ってからサーブを放つ。


 あえて、彼女が警戒しているであろう変化の大きいサーブではなく、ごく普通の、回転の少ないナックル性のショートサーブを、桜選手のフォアミドルへ。


 桜選手は、一瞬、その単調なサーブに戸惑いを見せたが、すぐに冷静に対応し、フォアハンドでツッツキ。


 しかし、そのツッツキは、ほんの少しだけコースが甘く、私のフォアサイドに浮き気味に返ってきた。


 …来た。


 私はそのチャンスボールを逃さない。


 裏ソフトで、桜選手のバックサイド、オープンスペースへ鋭いスマッシュを叩き込んだ。


 静寂 4 - 9 青木


 …まだだ…まだ、私の卓球は終わっていない。このセットで、たとえポイントを失おうとも、彼女の情報を少しでも多く引き出す…。


 私の心の中で、小さな闘志が再び燃え始める。


 私はもう一度、YGサーブのモーションから、実際には横回転をほとんどかけないナックルロングサーブを、桜選手のフォアサイド、エンドラインぎりぎりへと放った。


 桜選手は、そのYGサーブのモーションに警戒しつつも、ボールがナックルだと見抜くと素早く体勢を立て直す。


 そして、美しいフォームから放たれたフォアハンドドライブは、私の予測をわずかに上回るスピードと回転で、バックサイドを鋭く襲った。


 私はブロックしようとラケットを出すが、ボールはラケットの端をかすめ、コートの外へと弾かれた。


 静寂 4 - 10 青木


 …セットポイント…だが、この状況だからこそ、見えるものもあるはずだ。彼女の、この勝負どころでのサーブ、そして戦術は…。


 ベンチのあかねさんが、祈るように目をつぶっている。


 桜選手は、少しも表情を変えない。


 勝利を目前にしても、その冷静さは揺るがない。彼女が選択したのは、このセットで何度も私を苦しめた、バックサイドへの深く、回転量の多い下回転サーブ。


 …やはり、このサーブで来るか。彼女にとって、最も確実で、そして私が最も対応に苦慮すると分析しているサーブだ…。


 私は裏ソフトでドライブをかけようと踏み込む。


 しかし、ボールの回転は私の想像以上に強く、ラケットに食い込むような感触を残して、無情にもネットを越えることなく落下した。


 静寂 4 - 11 青木


 私は静かにラケットを下ろし、ベンチへと向かう。


 …第1セットを落とした…。だが、彼女の王道の強さ、そして私が「読まれている」という状況、その中で私がどう戦うべきかの輪郭が、ほんの少しだけ、見えてきたかもしれない


 …この程度で、私の心が折れると思うな、青木桜…。

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